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インドで日系企業に迫るコロナリスク 邦人一斉帰国、酸素不足で工場停止も

 新型コロナウイルスの感染が急拡大しているインドで、進出する日系企業の活動にも影響が広がっている。日本政府が現地の日本人に一時帰国を含めた検討を促す中、これまでに10社程度が邦人の一斉帰国を決めたもよう。また、インドでは医療用酸素の不足が深刻化しており、工場で工業用の酸素を使うスズキがインドのすべての基幹工場の操業を一時停止するなどの影響も出ている。多くの日系企業は現地での事業展開を継続しているが、従業員の安全確保は難易度を増しているのが現状だ。

 「(インドでは)通常期待されている医療サービスを受けられないリスクが従来よりも高くなっている」

 外務省は2日付のインドに関するスポット情報で、インドにおける新型コロナ感染状況への注意を喚起し、現地の日本人に一時帰国を含めた対応の検討を呼びかけた。

 こうした中、日系企業でも従業員の帰国の動きが出ている。約30人が駐在していた日本製鉄が4月までに全員を帰国させるなど、これまでに10社程度が日本人駐在員の全員退避を実施したもようだ。

 医療体制の逼迫(ひっぱく)は現地に根付く日本メーカーの生産体制にも影響を与えている。子会社のマルチ・スズキがインド自動車最大手となっているスズキは、インド国内の3工場を1日から9日まで一時停止。溶接などに必要な大量の工業用酸素の使用を控え、新型コロナの重症者向けの医療用酸素の確保に貢献するためで、インドの医療環境を踏まえた「人命第一」の対応をとる。

 またパナソニックは冷蔵庫や洗濯機、エアコンなどを生産するインド・ハリヤナ州の工場の操業を4月27日から停止。当初は5月3日までの予定だったが、州による都市封鎖(ロックダウン)が続いているため、解除されるまで、操業停止を延長する。

 ただ、日本からインドに進出している企業は約1450社に及び、拠点数も約5千カ所に達している。各社がインド市場の成長性に期待して投資を進めてきた結果で、多くの日系企業は邦人の帰国などの措置をとりつつ、現地での事業展開を継続する方針だ。

 インド初の高速鉄道計画に車体設計支援などで協力するJR東日本は、傘下の日本コンサルタンツの技術者全員を昨年4月までに帰国させたが、「ビデオ会議やメールなどで、日本からインドの技術者の支援を継続」(広報)している。ムンバイでオフィスビル開発事業を手掛ける住友不動産は、日本人駐在員を最小限の人数に限定するとともに、現地スタッフも含めて在宅勤務を続けている。

 また総合商社や金融機関なども、自宅から各種オンラインツールを活用して商談などを進めている。ラジャスタン州にエアコン工場を持つダイキン工業は、州から外出制限が出ているものの、工場の操業は許可されており、生産は継続中だ。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)の村橋靖之ニューデリー事務所長によると、多くの日系企業は工場長や現場関連の担当者はインドに残しつつ、駐在員のローテーションでの帰国などを行う方針という。村橋氏はインドでの感染拡大について「高止まりの状況」と分析。感染の拡大ペースが現状よりも上がらないとすれば、多くの進出企業は「全面退避の措置には至らない」と予測している。

 ただし企業にとって従業員の安全確保の重要性は論をまたない。丸紅の柿木真澄社長は6日の決算会見で「駐在員の健康と安全を第一に、帰国措置を視野にいれている」と話している。

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