ローカル5Gの中小企業導入援護 東京都が助成強化、低価格化なら急速普及も
東京都が“スマート工場”を実現する「ローカル5G」の本格運用を見据えて、中小企業の導入を支援する取り組みに力を入れている。昨年11月に中小企業がローカル5Gを研究・体験できる施設を開設したほか、今年に入り、工場の導入費用を補助する制度も設けた。ローカル5Gは基地局の設置などに多額の費用がかかることが課題となっており、コスト低減につなげるため、都は率先して普及促進環境を提供していく。
体験施設や費用補助
ローカル5Gは、企業や自治体が特定の土地や建物限定で第5世代(5G)移動通信システムを活用する取り組みで、高速大容量、低遅延のほか、1つの基地局で多くの端末に接続できる。ローカル5Gを用いれば、工場や物流拠点で数百台のロボットをケーブルなしで制御することが可能。また農場では5G通信網につながったカメラやセンサー類で作物の状態を管理し、農作業を効率化することができる。省人化や自動化が一気に進むため、さまざまな用途で活用が期待されている。
運用には総務省への免許申請が必要になる。本格的な運用は、ローカル5G用の新たな周波数帯「Sub6(サブシックス)」が使われる今年後半以降とされている。Sub6は、比較的エリアを広く構築できることから企業の関心が高く、同省は中小企業への普及も期待する。
全国の自治体でローカル5Gを活用する動きが活発化しているが、企業が多く集まる都の取り組みは、中小向けでのモデルケースになる可能性もある。都は5Gをポスト五輪の成長戦略として重点政策に掲げており、中小企業への導入を促進し、底上げを図る狙いだ。昨年6月に自治体で初めて無線局の免許を取得。昨年11月には都立産業技術研究センター(江東区)内にローカル5Gの研究施設「DX推進センター」を開設した。
同センターには、基地局が設置されており、中小企業がローカル5Gを体験できるようになっている。都は東大やNTT東日本と5G関連の先端技術の開発などで連携。ローカル5G導入に必要な技術も紹介する。5Gと連動する機器や設備の性能評価や試作品の検証も行えるようにした。
都立産業技術研究センター情報システム技術部の金田泰昌通信技術グループ長は「昨年11月以降、40~50社が来ているが、そのうちの7割が中小企業」と語る。7月からは公募で選ばれた中小企業とローカル5Gを活用したサービスロボットの実証研究も始める。金田氏は「中小の活用事例を増やし、普及につなげたい」と意気込む。
これに加え、都は中小企業の工場に先行的にローカル5Gを導入し、自動化や省力化、熟練工の技能伝承に取り組む事業の公募も行った。3月にメッキ加工のヱビナ電化工業(大田区)と大森クローム工業(同)、パイプ曲げ、板金加工の武州工業(青梅市)の3社を採択した。
ヱビナ電化では高精細カメラとAI(人工知能)を使い、作業現場の遠隔管理やリモートによる人材育成に取り組む。海老名伸哉社長は「将来的にデジタル化が不可欠だと思い、都の事業に応募した」と話す。今回の事業は対象期間が3年間で、基地局設置やシステム運用などの費用の5分の4、最大で1億2000万円を助成する。
海老名社長は「都の助成は大変ありがたい。中小が導入できる金額ではない。基地局が安くならないと、中小の普及は難しい」と話す。基地局は、大手のNECや富士通、エリクソン・ジャパンなどが開発しているが、ローカル5Gはこれから本格運用が始まるため、中小企業が購入しやすい低価格の汎用(はんよう)製品の普及はこれからだ。NTT東日本の担当者も「最小限の広さをカバーする基地局1基と端末5台程度をSub6規格で用意すると、現状では5000万円程度はかかる」と説明する。
基地局不要サービス
一方、ローカル5G導入を検討する中小企業の“ボトルネック”を解消しようとする動きもある。通信機器各社は汎用サーバーとソフトウエアで通信中継機能を代替する基地局不要のサービス提供も開始した。「初期費用100万円、月額40万円で利用できる」(富士通広報)という。機器の販売をめぐっては京セラやエイビットなど新規参入も相次ぎ、低価格化が進む可能性もある。
また、都が連携する東大の中尾彰宏教授は携帯電話会社の5G設備を低コストで貸し出し、共用するサービスの提供を提唱している。実現すれば、急速にローカル5Gが普及する可能性があるという。
中小の普及について、総務省移動通信課の大塚恵理課長補佐は「まずはコストの低廉化が重要になる。価格競争が生まれ、さらにコストが下がれば、十分に広がる余地はある」と期待する。都の中小支援の動きが競争促進への起爆剤となるかが注目される。(黄金崎元)