アパレル業界に新潮流、「売れ残り」を最先端へ 大量生産・廃棄回避の利点も
最新のファッションばかりを追うことに意味はあるのか-。そんな問いを投げかけるような試みが広がりを見せている。最先端のショーやネットショッピングでは前シーズンの売れ残りにスポットライトが当てられ、専門学校でも在庫品に手を加えて再利用する「アップサイクル」の授業が始まった。業界内でくすぶってきた大量生産・廃棄に対する批判と反省、レピュテーション(評判)リスクへの警戒感がじわりと強まってきたことが背景にある。
在庫品と古着だけ
4月に大阪市で開催された「2021 Best of Miss-OSAKA」。ミスユニバースジャパン、ミスグランドジャパンなどの大阪代表を決める大会で、ファッションセンスも重要なポイントだ。
そんなイベントで、在庫品と古着だけのコーディネートを紹介する一幕があった。ステージに上がったのは、新型コロナウイルス禍で無観客開催となった前年のファイナリストたち。衣料品在庫の卸売り・仕入れサイト「スマセル」を運営するウィファブリック(大阪市)が衣装を提供した。
「アパレル業界の大量廃棄について考えるきっかけにしたいと思いました」と同社の福屋剛社長は言う。業界ではシーズンごとに新作を発表し大量に生産、売れ残りは翌シーズンに持ち越さず多くが廃棄処分される。その量は世界で年間200億枚以上、日本国内でも10億枚とも言われる。
同サイトの会員数は昨年1年間で7倍になり、流通額も12倍に急増したという。ブランド品を安く買えることが伸びを支えているのは確かだが、最新作でなくても十分に消費者に評価されることを示している。
関係者「面白い」評価
イベントへの在庫品提供は、アパレル業界のあり方そのものを批判的に問い直すような試みだったにもかかわらず、関係者からは「面白い」と評価されたという。福屋社長は「業界で大量生産・廃棄をなくしたいと思っている人は多い」とみる。
服1着を作るのに二酸化炭素(CO2)を25キロ排出し、水は2.3トン使用。1人当たり年18枚を買う一方で12枚を手放していて、不要になった服のうち、リサイクルや再利用に回るのは計34%、残り66%はごみとして焼却・埋め立て処分されている-。
環境省によると、これが日本国内の現状だ。持続可能とは言い難い。
ただ、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を経営方針に取り入れる企業や団体は増えており、アパレル業界も例外ではない。実際、不要品の回収・リサイクルに乗り出すブランドは相次いでおり、今年に入ってもH&MやAIGLE、アーバンリサーチなどが取り組みを始めたり強化したりしている。
これまでの業界の商習慣はSDGsに反するだけでなく、ブランドイメージを傷つける。ウィファブリックが「Miss OSAKA」イベントに参画できた背景には、業界内に現状を変えたいという意識が広がっていたことがあるようだ。福屋社長によると「数珠つなぎのように」人脈が形成され、短期間のうちに実現している。
同社は今年3月、大阪市で開催されたファッションショー「KANSAI COLLECTION 2021 SPRING&SUMMER」に在庫品と古着を提供。その準備から関わったスタイリストを通じてミス大阪イベントへと至った。始まりは昨年12月。同社が専門学校の大阪モード学園の授業に協力したことだ。
大阪モード学園ではスタイリングの授業のため、「グローバルワーク」などのブランドを展開するアダストリア(東京)と組んで在庫品・古着を提供。生徒らが見せ方、コーディネートを考えスマセルで約30点出品したところ、即日完売となった。
両社で今年度はデザイナーのための授業にも協力し、店頭には出なかった試作品を提供。夏には生徒の手でアップサイクルした商品をサイトに出品する計画だ。授業で同校を訪れた福屋社長は「今の学生は義務教育から環境問題について学んでいる。サステナブル(持続可能)な生産活動、消費行動への関心は高い」と話す。
そんな世代がファッションを牽引(けんいん)している。最先端ばかりを追うのはもう古いかもしれない。(粂博之)