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“最長20年の分割払い”は困るのでは…湧水が流入の恐れ リニアトンネル公開ルポ

 山梨、静岡、長野県にまたがるリニア中央新幹線の南アルプストンネルは静岡県の反対で静岡工区で着工できていない。JR東海は山梨工区の作業用トンネル(山梨県早川町)の掘削現場を報道関係者に公開し「工事は順調」とアピールしたが、静岡県境を越えると突発湧水の恐れがあり、その水は山梨側に流れるという。(渡辺浩)

 静岡県境まで2キロ

 今月12日、甲府市からバスで約1時間半かけて早川町の工事事務所に到着。そこからJR東海の車で10分ほど走ってトンネル入り口にたどり着いた。

 南アルプス山中の新倉(あらくら)地区。昭和46年、結成されたばかりの過激派、連合赤軍が初の軍事訓練の場所に選んだほどの人里離れた奥地だ。

 リニアが通ることになる本線トンネルは全長25キロのうち1・3キロしか掘れておらず。公開されたのは本線トンネルに向かって進む作業用トンネル「広河原(ひろがわら)非常口」。

 4・1キロのトンネルのうち3・3キロを掘り進んだ先端部で車を降りた。静岡県境まで約2キロの地点だ。標高約900メートルで、上にある山の地表まで約800メートルある。

 突発湧水の可能性

 「想定より湧水は少ない」。現場で説明したJR東海の中川隆広・山梨工事事務所長がそう話した。

 静岡県の川勝平太知事はトンネル工事で大井川の流量が減少すると反対しているが、ここでは記者が見た限り、水は内壁を滴る程度だ。広河原非常口全体の湧水量は毎分、浴槽2杯分の0・4トンだという。

 静岡工区では湧水はどうなるのか-。中川所長に聞くと、「静岡工区のことはコメントできないが、本線トンネルで県境を越えたところに…」との答えが返ってきた。静岡工区=静岡県ではなく、山梨工区は静岡県にはみ出ているのだ。

 「県境を越えたところに断層があり、突発湧水の可能性がある。だから西に向かって上り勾配で掘る」という。下りで掘ると突発湧水が出たときに作業員が危険だからだ。この断層は畑薙山(はたなぎさん)断層と呼ばれる。

 全量戻し最長20年

 川勝知事は、突発湧水も含め工事によって静岡から山梨に流れる水を全て静岡に戻すようJR東海に求めている。これに応えて同社は2月に開かれた国の有識者会議で、山梨に流出する湧水と同量を事後に山梨から静岡へ戻すと提案した。

 「事後に」というのがポイントだ。山梨に流れた水そのものを静岡に戻すのではなく、山梨で出た水を釜場と呼ばれるくぼみにためて後から静岡に返す。

 JR東海の試算によると、静岡から山梨に流れる水は、工期を10カ月として東京ドーム2・4~4杯分の300万~500万トン。山梨で出る水は少なく、年間で12分の1以下の24万トンと想定される。山梨に流れたのと同量の水を静岡に返すには12~20年かかる計算だ。

 工事中に山梨に流れた水を最長20年の分割払いで返されても静岡は困るのではないか。静岡から山梨に大量の水が流れ込むと富士川の水量は増えるはず。それが駿河湾に流れたら、川勝知事が心配するサクラエビの生態系に影響しないのだろうか…。そんなことを考えながら山を下りた。

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