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「ぜひどうぞとはいえません」寄席、土日営業の苦悩…真っ先に考えたファンの心

 新型インフルエンザの感染拡大に伴う緊急事態宣言が20日まで延長となり、大阪府内では映画館や劇場が平日営業を再開するなど休業要請が一部緩和された。そんななか、米朝事務所が運営する寄席小屋「動楽亭(どうらくてい)」(大阪市西成区)は土日も営業する。緩和後初の週末を控え、滝川裕久社長は、産経新聞の取材に、「平日はみんな一生懸命働いている。気分を変えたい人もいるのでは」とする一方で、「ぜひどうぞとはいえません。よかったらお越しくださいという思い」と複雑な胸の内を明かした。(渡部圭介)

 動楽亭は4月25日から休業していたが、6月1日から客席を半数の50人に制限して再開。土日営業の判断は、滝川社長や席亭の桂ざこばさんら同社役員会で協議し、真っ先に考えたのがファンの心だったという。

 「ストレスを発散したいという落語が好きな人はたくさんいる。それをほっといたらいかんのちゃうか、という話になりました。休業要請に対して一石を投じるとか、誰かに逆らうとかそういう気はないんです」

 今回の決定の背景にあったのが、感染拡大による約3カ月の休業が明けた昨年6月の動楽亭の景色だったという。

 「お客さんの生の笑い声を聴いたとき、感激して涙が出た。お客さんも気分発散になるようなものは必要だと思った。長年この仕事をやっていて、そういう思いを忘れていた」と振り返る。

 それだけに、平日のみでなく土日営業も含めて知恵を絞る必要があると感じた。5月の日曜に兵庫県で米朝事務所所属の落語家の落語会があり、会場のスタッフが苦労しながらも支えてくれているのを目の当たりにした。「僕らも苦労をしないとあかんと。動楽亭は窓が4つあり、固定椅子ではないのでお客さん同士の距離も調整できる」と営業を決断した。ただし、大阪の感染状況などを考慮しながら「僕らもあかんと思ったらすぐ閉めます」という。

 公演を再開した1日、50人の定員に対して40人が訪れ、落語ファンの思いを肌で感じた。

 「寄席に入る“扉”は設けておきますが、開けるかどうかはお客さんの判断。まだ危険だと思ったら入ってこない。そんな不安を感じずに来てもらうには、準備ができている姿を常に見せておくことも大事やと思っています」

 緊急事態宣言が長引く中、感染防止に神経をとがらせながら「笑い」を届けようとする噺家(はなしか)たちの思いをそう代弁した。

 動楽亭 米朝事務所所属の桂ざこばさんの実家跡に、平成20年に完成した寄席小屋。毎日午後に「昼席」が開かれている。若手の噺家にとっては、観客の前で落語を披露する経験を積める場にもなっている。

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