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債務に民業圧迫に高齢化…中国悩ます多くの課題

 米中間での選択的デカップリング(分断)への警戒が続く中、3月初旬に北京で開かれた第13期全国人民代表大会(全人代)第4回会議で採択された第14次5カ年計画(2021~25年)では、「国内大循環」を重視する内需主導の経済運営方針が示された。国内市場と国際市場をうまく連結させ、国内外の「双循環」が互いに促進し合う新たな発展構造の形成を目指すも、厳しい国際情勢を背景に、消費促進を中心とした内需拡大で強大な国内市場を形成し、自律的な成長力を強化する方針だ。(三菱総合研究所・橋本択摩)

 国内大循環を重視

 中国は建国100周年を迎える49年には、「社会主義現代化強国」の完成を目指している。習近平国家主席は12年より、「中華民族の偉大な復興の実現が近代以降の中華民族の最も偉大な夢だ」と繰り返し、中国共産党の統治理念となっている。中国の夢とは、1840年のアヘン戦争以降、屈辱の歴史を乗り越え、明帝国時代のような栄光を取り戻すものだと指摘されている。

 中国で共産党による統治の正当性を維持するためには、経済の持続的な発展が欠かせない。中国政府は「小康社会の全面的建設」という目標達成に向けて、過去8年で累計1兆6000億元(約27兆3600億円)にも及ぶ財政支出で脱貧困に取り組んできた。そして21年2月、同主席は「貧困脱却堅塁攻略戦」で全面的な勝利を収め、絶対的貧困の撲滅が実現したと宣言した。政府は今後、貧困への逆戻りを防ぐとともに、第14次5カ年計画で明記したように、「共同富裕(ともに豊かになる)」の目標実現に向けて、都市と農村の格差縮小に取り組むとみられる。

 政府は35年までの長期目標で中間層の著しい拡大を掲げているが、実現には農村から都市への人口移動が鍵を握る。これまでも政府による地方中核都市への戸籍取得制限緩和措置などの影響もあって都市部への人口流入が進み、都市化率は年々上昇して19年に60%を上回った。第14次5カ年計画には25年までに都市化率を65%まで引き上げる目標が盛り込まれ、これによりサービス業の発展、内需拡大をもたらすだろう。

 しかし、中国経済が抱える課題も多い。ここ10年あまり、経済成長とともに債務の過剰な積み上がりという問題を抱えてきた。国際決済銀行(BIS)によると、中国の家計、企業、政府の総債務は世界金融危機後に右肩上がりで増加し、20年7~9月期には国内総生産(GDP)比で285.1%に達した。過剰債務がもたらす実体経済への影響は無視できず、経済全体の生産性が低下するおそれがある。

 また、中国の国有および民間企業が発行した社債のうち、21年に入ってから5月末までに68件、663億元の社債が債務不履行(デフォルト)となり、過去最高額となった20年を上回るペースで頻発している。仮に社債のデフォルトが連鎖的に波及する事態となれば、信用収縮により金融危機を招くおそれがあるため、引き続き注意を要する。

 習指導部による民業圧迫の動きがみられることも懸念される。20年11月にはアント・グループの新規株式公開(IPO)が延期され、今年4月にはアリババに独占禁止法違反で過去最大となる182億元の罰金処分を科した。全人代での「政府活動報告」でも、21年の重点施策として、反独占と資本の無秩序な拡張防止を強化することが盛り込まれ、金融当局はプラットフォーム企業への監督を強化する方針を打ち出している。中国のイノベーションを担ってきたプラットフォーム企業に対する締め付けにより、中国全体のイノベーション発展に影響が生じないか懸念されるところだ。

 発展持続の妨げにも

 長期的には高齢化の問題が避けられない。5月に公表された国勢調査では、65歳以上の人口は1億9063万人と、10年前から6割増加、総人口に占める割合は13.5%に達し、10年から4.63ポイント上昇した。産児制限や都市化率の上昇による核家族化、そして新型コロナウイルスの影響などから出生数も減少傾向にあり、22年にも総人口が減少に転じるとの見方もある。中国共産党は5月31日、1組の夫婦につき第3子まで出産を認める方針を示した。中国は社会保障制度の整備が遅れており、高齢化社会の到来に向けた制度改革が重要な課題だ。

 米国との覇権争いが長期的に続くとみられる中、中国の国内経済においても持続的な発展に向けた課題は山積している。権威主義体制を堅持したまま、これらの難題をどのように克服していくのか、注目される。

【プロフィル】橋本択摩 はしもと・たくま 東大経卒。第一生命経済研究所、三井物産戦略研究所などを経て、2020年2月に三菱総合研究所入社。政策・経済センター主任研究員。アジア新興国の経済分析を担当。44歳。埼玉県出身。

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