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機を逃さずに 100年の伝統技術の底力、「脱ハンコ」に抗う
ただ、平成に入るころに樹脂製の認印の登場や、ビジネスや生活様式への変化で徐々に需要が減った。
スワロフスキーの入った印材を出す小山良印材製作所でも高級品の底堅い需要に支えられて売上高は維持しているが、生産量はピーク時の約10年前から約3分の1の日産1千本にまで落ち込んでいる。
だが、小山社長は日本における印鑑の役割について「例えば人生の節目、大きな契約などでもまだ使われ続けたり、会社印は会社の顔と考えられたり、日本の文化に印鑑はまだ息づいている」と強調する。「例え需要が減っても、大切な場面で使うものだからこそ丁寧な作り方と品質を守り続けていきたい」と心に決めている。
今も変わらぬ手作業
大阪府松原市の近鉄南大阪線河内天美駅近く、線路沿いに建つ芝野印材製作所。時折電車が走り抜ける音が聞こえる作業場では、黒水牛の角が電動のこぎりで手早く切り削られ、美しい円柱状に仕上げられていた。
創業は昭和の初め。3代目の芝野幹雄代表は角を手に取り「印材に加工したときをイメージしながら切る場所、切り方を決めていく」と話す。
約20センチの角から印材として製品になるのは、1本程度だ。幹雄さんは夫婦で手作業で印材を作る。「オランダ水牛は、きれいな模様が出ればそれだけ販売価格も上がる」と、模様を見極めるのも腕の見せ所だ。
角の芯が印材に入るように切り出すのも肝心。角は中心に近いほど高密度で硬いため、芯を含むとゆがみやひび割れを防ぎ、丈夫になる。そういった印材は「芯持ち」と呼ばれ、実印や銀行印など高級な印鑑に使われる。