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「体操ニッポン」躍進支える国産メーカー 源流は意外な歴史

 高度な技が次々と繰り出された東京五輪の体操競技。それを支えたのが、鉄棒や床などの体操器具を納入した国産老舗メーカー「セノー」(千葉県松戸市)だ。独自の技術を持ち、体操器具で国内シェア約9割を占めるセノー社。そのルーツは日露戦争にある。自国開催という晴れ舞台に、もう一つの“日本代表”として臨んだ。

 3日、体操男子種目別鉄道の決勝で、橋本大輝(19)がひときわきれいな弧を描き、着地した。団体、個人総合でも高得点をたたき出した鉄棒は、橋本の得意種目だが、この演技に使用されたのが同社製の鉄棒だ。

 最大の特徴は、「しなり」にある。他メーカーの鉄棒は上下方向にしかしならないが、この鉄棒は360度均等にしなる。

 接続部分に「双発機構」と呼ばれる特殊な金具を配置することで、水平方向にも力が分散され、大車輪を回るときも楕円ではなく真円に近くなる。弾みもつきやすいため、筋力に頼らなくてもダイナミックな演技がしやすいという。

 五輪で使用される体操器具は原則、国際連盟が複数案を示し、大会組織委員会が選ぶ。全て国際基準にのっとっているが、メーカーごとに“癖”があるのが実情だ。

 2016年リオデジャネイロ大会で使用された海外メーカーの体操器具は、日本人選手から「固い」「弾まない」などと不評の声が上がっていた。

 一方、セノーは国内シェアの9割を占めており、日本選手にとっては最もなじみのある器具ともいえる。

 体操女子種目別床運動で銅メダルを取った村上茉愛(まい=24)が得意とする床を作っているのもセノー。世界に先駆けてスプリングを内蔵した床は、小柄な選手でも跳ねやすい。

 「器具に僅かでも不具合があれば演技結果に直結するシビアな世界。寸分の誤差も許されないという意識で仕事に携わってきた」

 同社企画開発部で段違い平行棒などの設計や開発を手掛けてきた濁川(にごりかわ)靖さん(39)はこう話す。

 同社の源流は日露戦争に遡(さかのぼ)る。当時、創業者の勢能(せのう)力蔵は従軍先の戦場で目にしたロシア兵との体格差に衝撃を受け、日本人の体力を向上させようと、明治41年に鳥取県で開業。昭和10年から本格的に体操器具を扱い始めた。

 国産メーカーとして初めて五輪に体操器具を納入したのは前回1964年東京五輪。これまでに世界選手権など数多くの大会で採用されてきた。

 濁川さんは「100人中100人が満足する器具ができない限り、改良に終わりはない。これからも選手とともに体操の可能性を模索していきたい」と意気込んでいる。(竹之内秀介)

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