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なぜ今「海外民藝」が若者に人気なのか? 異国の奥地からの“来訪者”が放つ魅力

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部

 あらゆるものがネットで手に入る時代だからこそ、人は「得がたさ」に惹(ひ)かれるのか。「海外民藝」を開拓した第一人者といわれる「巧藝舎」(横浜・山手町)の店主、故・小川泰範さんが長年かけて集めた世界の手仕事品を紹介する図録「世界の美しい民藝」(グラフィック社刊)が5月の発売以来、幅広い世代から関心を集めている。本来ならば異国の奥地から出ることのなかった品々が、遠く離れた東京の、しかもトレンドの中心地でハイセンスな人たちの感性を刺激している。決して洗練されたものとは言いがたく、素朴な異国の品々が、なぜいま多くの人の心を惹きつけるのか。

 「開拓」という名の収集活動

 横浜の山手町界隈。観光スポットとして知られる「港の見える丘公園」に向かう坂の途中、少し奥まった場所に巧藝舎はある。まるで個人宅のような店構えだが、その店先には店内に入りきらない甕や家具、雑貨などの民藝の品があふれかえっている。

 店内には日本では見慣れない顔をした面がこちらに視線を向け、織物や木工、陶器のほか、玩具や祭器など異なる国の品々が所狭しと並んでいた。気候や風土、生活習慣などが影響した、それぞれの暮らしの中から生み出された手仕事の数々。一昨年にがんで亡くなるまでの40年あまり、海外旅行がいまほど容易ではなかった時代から小川さんが独自に仕入れルートを開拓し、収集したものたちだ。

 そもそもは濱田庄司や芹沢銈介といった「民藝運動」の巨匠たちのコレクションへの協力が始まりだったという小川さんの収集活動。向かう先は主に中南米、アフリカ、アジア地域の国々で、骨董的な価値があるものではなく、1970~1990年代に使われていた“現役”の品々を中心に集められた。

 「文化に対する偏見を捨て、相手の信頼を得るには現地で相手と同じごはんを食べ、同じ水を飲むことから始まる」と教えてくれたのは、泰範さんと共に父親から工藝舎を引き継ぎ、自身も東南アジア地域で収集活動を行っていた姉の能里枝さん(78)。何年も現地に足を運び、信頼関係を築いてきた。320点に及ぶ貴重な文物が紹介されたこの本には、そうして地道に開拓した仕事の痕跡が文章や現地の写真などとともに記されている。

 収集品の中には民族性が高い歴史あるものもあれば、素材を変えながら作り続けられているもの、生活様式の変化で姿を消しつつあるものもある。「時代の変化によってなくなるものもあれば、また新たに生まれる品もある。ものは暮らしや祈りの思いから生まれる」と能里枝さんは語る。

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