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大都会の隣で始まった下町ワーケーションの未来 近場観光の需要を掘り起こす

 新型コロナウイルス禍でテレワークが浸透する中、旅先で休暇を楽しみながら働く「ワーケーション」を推進する動きが活発化している。地方創生につなげようと誘致に熱を入れる自治体が相次いでいるが、大阪府東大阪市で始まったのは「都市型ワーケーション」と銘打った取り組み。昭和レトロの風情を残す下町の魅力を発信し、近場観光の需要を掘り起こすのが狙いだ。

 「(東大阪市の)布施には昭和の情緒が残る商店街がある。地元の人には日常だが、よそ者にとっては非日常の場所。大阪市中心部にない魅力がある」

 町工場が集まる「ものづくりのまち」東大阪の下町にワーケーションの可能性を見いだすのは、シェアオフィス運営のベンチャー企業「リクリー」(大阪市北区)の高室直樹社長。東大阪市の外郭団体が運営し、総合スーパー「イオン」が入る近鉄布施駅前の複合商業施設内に8月、大阪市を除けば大阪府内最大級というシェアオフィス(広さ約700平方メートル、約130人収容)をオープンさせた。

 昨年来のコロナ禍でテレワークが普及するなど働き方は多様化。一方、自宅では仕事がはかどらないという人も少なくなく、オフィスと遜色のない機能性を備えた環境を提供する。利用料金は3時間千円からで、Wi-Fi(ワイファイ)が整備され、コーヒーも飲める。

 高室社長は「(大阪・キタの)堂島のシェアオフィスと比べると、利用料金は3分の2程度と格安」と手軽さをアピール。月額契約すれば個室も使え、近鉄沿線に住む府内や奈良、三重の通勤・通学客らの利用を見込む。

 リクリーの取り組みに共感し、宿泊客の受け入れを担うのが「SEKAI HOTEL」(セカイホテル、大阪市北区)だ。同社は西九条(同市此花区)と布施の2カ所で宿泊施設を運営。布施の施設は商店街の空き店舗やビルを改装し、平成30年にオープンした。矢野浩一社長によると、利用は「出張客のリピートが多い」といい、シェアオフィス事業との連携に手応えをにじませる。

 リクリーとセカイホテルは「まちごとワーケーション@東大阪」と題し、クラウドファンディングサイト「マクアケ」で、シェアオフィス利用と宿泊、喫茶店での朝食をセットにした割安プランを9月末まで販売。11月以降、宿泊などの利用が可能となる。

 ワーケーションといえば、豊かな自然環境に恵まれたリゾート地を思い浮かべそうだが、両社が掲げるのは「都市型ワーケーション」。高室社長は「コロナ後の地方創生モデルとして全国に波及できれば」と力を込める。

 布施には、回転寿司発祥の店で知られる「元祖廻る元禄寿司」や、縁起が良い名前の販売員がそろう宝くじ売り場といった名物もある。ただ、東大阪市の野田義和市長は「安くて人情味がある商店街がさびれてしまった。布施の活性化が市の課題」と語り、ワーケーションの推進を起爆剤にまちの再活性化を図りたい考えだ。

 市場調査会社の矢野経済研究所(東京)は、国内におけるワーケーションの市場規模(推計)が、令和2年度の699億円から5年後の7年度は約5倍の3622億円へ拡大すると予測している。コロナ収束後もオフィスでの勤務とテレワークを組み合わせた働き方が根付いていくとみる。

 近畿大経営学部の金相俊(キム・サンジュン)教授(観光マーケティング)は、布施での取り組みについて「下町というニッチな場所で面白い」と評価。ワーケーションの動きが全国に広がれば、労働者の事情に応じた「働き方の多様化につながる」と指摘する。加えて、訪日外国人客(インバウンド)に依存しない地域活性化や、「(空き家などの)遊休施設の有効活用を図れる可能性がある」と期待を寄せる。(西川博明)

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