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旭化成、海外強化へ基盤固め着々 中国で蓄電池部材合弁

 旭化成が海外展開を加速させている。売上高に占める海外の比率は令和3年4~6月期に四半期ベースで初めて5割を超えた。巨大市場の中国では現地の大手メーカーと組み、来年から余剰電力を蓄えるときなどに使うリチウムイオン電池の主要材料の生産に乗り出すことを決定。来年春に公表する次期中期経営計画でも、海外強化の姿勢を打ち出すとみられる。

 「国内よりも、海外の売り上げ成長が大きいし、そのポーション(部分)も大きくなっている」。旭化成の小堀秀毅社長は9月17日に開いたオンライン記者会見でこう語った。

 同社の海外売上高比率はじわじわと上昇しており、3年3月期は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた中でも42.8%と通期ベースでは最高となった。直近の3年4~6月期は50.2%と5割台に乗せ、海外売上高も2930億円とコロナ禍前の元年4~6月期と比べて3割以上増加。この10年ほどで積み重ねてきた海外企業の買収効果に加え、米国や中国を中心にコロナ禍からの回復が比較的早く進んだ追い風も受けている。

 中国では、リチウムイオン電池の主要材料であるセパレーター(絶縁材)を、現地の大手メーカーである上海エナジーと合弁で、来年前半から現地生産する。上海エナジーが51%、旭化成傘下でセパレーターを製造する米ポリポアが49%を出資し、合弁会社の「江西恩博新材料有限公司」を江西省に設立した。

 上海エナジーとの提携は、セパレーターの中でも「乾式」と呼ばれる種類。別の種類である「湿式」では競合関係にある。

 合弁生産の狙いは、電気自動車(EV)などの車載用途はもとより、脱炭素の潮流を背景に太陽光や風力などの再生可能エネルギーの余剰電力を効率的にためる電力貯蔵システム(ESS)の普及を見据え、中国のリチウムイオン電池市場を攻めることだ。まず年間1億平方メートルの能力で生産を開始し、2028(令和10)年ごろには年間10億平方メートルまで拡大する。中国戦略の統括拠点である旭化成(中国)投資有限公司の椋(むく)野(の)貴司董事長は「中国に旭化成グループが今後どう取り組んでいくかの一つの試金石」と指摘する。

 一方、米国では、12年に医療機器メーカーのゾール・メディカルを買収したのを皮切りに、15年のポリポアなど、「成長の一つの手段としてM&A(企業の合併・買収)を積極的に活用してきた」(小堀社長)。新規事業の創出でも米国を重視しており、社外のベンチャー企業に対して投資を行うコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の活動を西部のシリコンバレーと東部のボストンで展開している。

 欧州では、この地域の先進分野である自動車・環境で新たなビジネスを開拓する。例えば自動車分野では、現地で完成車のOEM(相手先ブランドによる生産)供給を手掛けるメーカーや主要な部品メーカーとの接点を増やし、自社の電子部品や繊維などを売り込むことで開発パートナーとなることを目指す。

 日本国内は、少子高齢化などを背景に市場としての伸びしろが限られる。「海外の比率が高まっていく流れはいかんともしがたい。伸びるところにリソース(経営資源)を投入していくことになる」と小堀社長。令和4年3月期を最終年度とする現中期計画に続く次期中期計画は来年春に公表する見込みだが、海外展開を強化し成長を目指す姿勢を盛り込むとみられる。

 技術覇権をめぐる米中対立の先鋭化を受け、主要国では経済安全保障の重要性が意識されている。小堀社長は「それぞれの地域の政治が行う産業政策と経済の成長・発展が、密接な関係になりつつある」と強調。各国・地域の特徴を踏まえた戦略が従来以上に求められている。

(森田晶宏)

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