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10月からのIR区域申請 北海道「次回挑戦」も情勢不透明

 カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致を目指す都道府県による国への区域整備計画申請が10月1日から始まった。北海道は候補地の環境影響調査に時間がかかるとして令和元年、既に見送る方針を表明。「7年後」とされる次回の申請に向けて準備を進めるが、新型コロナウイルス禍などで情勢は様変わりしている。道は「きたるべき挑戦の機会に向けて準備を進める」と話すが、先行きは不透明だ。

 コロナ禍で「難しい」

 政府が進めるIRは、観光業を成長戦略の柱とした地域経済の活性化や雇用創出が狙いだ。ホテルや国際会議場、娯楽施設など複合的な大規模施設を整備。その運営財源の多くは施設内に整備するカジノの収益が充てられる。政府は最大3カ所を選定する方針で、現在は大阪府・市、和歌山県、長崎県などが誘致レースを展開している。

 観光立国の北海道は、空の玄関口である新千歳空港に隣接する苫小牧市植苗(うえなえ)地区が候補地に挙がる。広大な土地を生かし、自然と共生したIRを整備する構想を掲げるが、開発に係る環境影響調査で希少野生動物のオオタカなどの生息が判明。誘致に前向きだった鈴木直道知事だが、申請開始までに「環境への適切な配慮を行うのは不可能」として令和元年に申請を見送る考えを表明した。

 その後、世界的なコロナ禍で情勢は一変しているものの、道は「挑戦する考えは変わらない」とのスタンスを取る。だが、担当者は現状について「IR事業者の経営も厳しく、われわれもコロナ対応で議論を進めるのが難しい。今は次の機会に向けて北海道のコンセプトを検討中だ」と話す。

 海外事業者の撤退懸念も

 苫小牧市は人口約17万人。ものづくり産業をはじめ、道内最大の物流港と空の玄関口である新千歳空港の「ダブルポート」を生かした地域活性化を成長戦略に掲げる。誘致エリアの植苗地区は空港に隣接する好立地で、IRとともに国内の投資会社によるリゾート開発計画を両輪とした「国際リゾート構想」が進む。

 岩倉博文市長は人口減少や産業構造の変化から、同構想を「良質な雇用を生むために絶対避けられないミッション」とし、道と連携した誘致活動を強調する。しかし今後のコロナ動向や新政権の方針など不確定要素が多いとして「今の段階では先行きを見通せない」と率直な思いを語る。

 加えて海外のIR事業者の撤退という課題も。苫小牧市では、最大4社の海外IR事業者が名乗りを上げていたが、現在は米国の「ハードロック」の1社のみ。同社日本支社は市役所前に支店を構え、ギャンブル依存症などの影響を懸念する地元市民への理解醸成活動を進めていたが、現在はコロナの影響で休止状態だ。

 岩倉市長は、IR事業者撤退が相次ぐ状況に対して「IRは(多額の投資と運営ノウハウが必要なため)海外事業者がいないとできない。次回の申請まで待ってくれるかどうかも分からないが、あきらめずにチャレンジするという考えにぶれはない」と話す。

 観光産業と第1次産業を軸とする北海道。人口減少や少子高齢化という課題を抱える中、将来に向けた新たな活路として観光産業の強化は不可欠。だが、その将来方向はまだ見通せていない。(坂本隆浩)

 

【IR(カジノを含む統合型リゾート)とは】 国際会議場や展示施設などの「MICE(マイス)」をはじめ、ショッピングモール、テーマパークなどの観光施設とともに、これらの運営を収益面で支えるカジノ施設を民間業者が一体的に整備し、運営する複合観光集客施設。高い経済効果が期待される一方、ギャンブル依存症を助長するなどの懸念も指摘されている。

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