テクノロジー

「本気の想い」詰まってます サントリーの植物研究現場に潜入

 もっと青く

 サントリーグループの園芸事業を象徴する研究開発となった「青いバラ」。一躍脚光を浴びたあの事業は今どうなっているのか。園芸部門の取材を始めたからにはこのまま見過ごせない。こちらの研究も探ることにした。

 品種の掛け合わせによる開発が中心の滋賀の研究所に対し、遺伝子組み換え技術による「青いバラ」の研究を手がけるのが、別のグループ会社、サントリーグローバルイノベーションセンター(東京)だ。サントリーHDの研究施設「サントリーワールド リサーチセンター」(京都府精華町)に研究所をもつ。コロナ対策のため訪問はかなわなかったが、リモートで潜入した。

 世界初の青いバラ「アプローズ」は開発を開始してから30年になるが「誰もが青と認める鮮明な花の色を目指して研究を続けています」。当初から関わる勝元幸久主幹研究員(53)が強調する。植物界では青の部類に入るというが、見た目の感覚ではまだピンクや紫に近いからだ。

 無菌装置の中で細かく切ったバラの葉から変化した植物細胞の塊「カルス」に、青花から採取した青色遺伝子を注入。その後カルスに植物ホルモンの物質を加えバランスを調整することで植物の形に再生する。閉鎖温室で開花させ、花色を検証しているという。開花まで1年がかり、年間約千株を試験するという根気のいる研究だ。

 そもそもバラには青色の遺伝子が存在しないため、交配による青バラ開発は不可能。遺伝子組み換えの実験を重ねているという。

 「バイオテクノロジーといえば聞こえはいいですが、毎日細かい作業の繰り返し。温室では首にタオルを巻いて汗を拭き拭き、泥臭い作業の積み重ねです」と勝元さん。この30年は苦難の連続だ。

 一方で、こんなエピソードも紹介してくれた。「研究段階のため治療が難しい」との説明を受けた難病の子を持つ母親からメールが届いた。「青バラの誕生に希望を見いだした」と綴ってあったという。

 「読むたびに目が潤みます。青いバラは単なる飾り物や珍しい物じゃなくて、一人一人の特別な思いと重なることで評価してもらえているんだなと。こうした声や手紙が励みになっています」。挑戦はまだまだ続く。

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