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「カルビーに勝つにはこれしかない」湖池屋がカラムーチョという禁断の味に手を出したワケ

 ■海外売上の8割を占めている

 現在、湖池屋の海外売上の実に8割を「カラムーチョ」が占める。

 「海外にこういう味は意外とないんです。例えばアメリカだと、ポテトチップスの味の75%は塩味。要するに食事なんですね。お腹が空いた時や料理の添え物としてポリポリ食べる。だけど日本のポテトチップスやポテトスナックはお菓子。いろんな味がある。だから『カラムーチョ』は珍しいんじゃないかな」

 「しかも『カラムーチョ』は、メキシコ的なフレーバーやクミンなんかも入ってますけど、辛み以外のベース部分は日本的なんですよ。海外にも辛いスナックはあるけど、辛さだけで味付けされていることが多いです。日本的な、いわゆる旨味の部分はあまりない。だから『カラムーチョ』は海外で受けるんだと思います」

 振り返ってみれば、日本で1980年代半ばに起こった「激辛ブーム」の火付け役は間違いなく「カラムーチョ」だった。1984年に2300トンだった唐辛子の輸入量は翌年に倍増。「カラムーチョ」は日本人の味覚を確実に変えた。

 ■フレーバー複雑化の嚆矢となった

 「それまで食品業界ではタブーだった“激辛”が売れているのを各社さんが見て、『ああ、辛いのも売れるんだ』って気づいたんですよね。『カラムーチョ』は本来はニッチを狙ってたんです。だけど蓋を開けてみると全然ニッチじゃなかった。想像以上にマーケットが大きかった」

 「『カラムーチョ』は辛いだけでなくものすごく複雑な味なので、各社は『辛いうえに、こんなにおいしくできるんだ』と驚いたと思います。実際『カラムーチョ』以降は“強い味”がものすごくおいしく、進化していきました。ヤマヨシさんの『わさビーフ』も1987年発売ですし」

 80年代後半から90年代にかけ、ポテトチップスメーカー各社は新しいフレーバーや形状を次から次へと発売し、ポテトチップスは多様化の時代に突入する。現在の日本でこれだけ多くのポテトチップス商品が出ているのは、「カラムーチョ」が最初の突破口を開いたからにほかならない。

 【参考資料】

 「’75 食品マーケティング要覧 No.3 スナック食品市場の将来」富士経済/1975年

 「’85 食品マーケティング要覧 No.5 スナック菓子市場の徹底分析」富士経済/1985年

 畑中三応子『ファッションフード、あります。』紀伊國屋書店/2013年

 

 稲田 豊史(いなだ・とよし)

 編集者/ライター

 1974年、愛知県生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経てフリーランス。著書に『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』(イースト・プレス)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。

 

 (編集者/ライター 稲田 豊史)

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