「右折時は手で押して」
こうした複雑さを示す代表例が右折の仕方だ。個人購入の電動キックボードは原付扱いのため、大きな交差点では「二段階右折」が義務付けられている。車道の左端を走りながら交差点を通過したところでストップし、進行方向を右に変えたうえで信号に従ってスタートする方法だ。
これに対して特例事業の電動キックボードは小型特殊自動車のため、右折の方法は自動車のように右端のレーンに寄ってから曲がる「小回り右折」となる。
しかし実際には、この小回り右折とは異なる事実上の基準といえるルールが存在するのだ。全国14カ所で特例事業を展開しているLuup(ループ)は利用者に対して、「走行量の多い道路などを右折する場合には、交差点で電動キックボードを一度降り、横断歩道を押し歩いて渡ることを推奨します」と呼びかけている。
実際に特例事業の電動キックボードを利用してみると、時速15キロというスピードはさほど速くは感じない。自動車や原付はもちろん、自転車に追い抜かれることもしばしばだ。ループは「車道を走行する自動車のほとんどは15キロ以上の速度で走行している。速度差の大きい車両が一緒に右折をするとお互いに危険を感じるという声は多い」と、横断歩道を歩いて渡る右折を推奨する理由を説明する。
異なる交通ルールは続く
新たな交通手段に関するルール作りを検討している警察庁の有識者検討会は4月の中間報告書で、特例事業の電動キックボードのような時速15キロまでしか速度がでない交通手段を「小型低速車」とし、「自転車と類似の交通ルールとするのが適当である」との方向性を示した。自転車と同じであれば免許なしで運転ができ、小回り右折は禁止だ。中間報告書は歩道の通行は不適当とし、ヘルメット着用については特例事業の状況などを精査した上で検討するとしている。
ただ、個人が購入できる電動キックボードには時速20キロ以上の速度がでる製品が多く、小型低速車の枠から外れることになりそうだ。原付としての扱いが変わらなければ、電動キックボードごとに交通ルールが異なるという状態は続く。
特例事業を展開するループは利用者登録時にアプリ上での交通ルールテストで満点をとらなければ利用できない仕組みを導入するほか、警察と連携した安全講習会を開くなどしており、事業者側としての対応に力を入れている。今後の普及を見据えるならば、政府によるルールの整理はもちろん、小型低速車としての電動キックボードと、原付扱いの電動キックボードで、名称や外観に違いをつけるといった取り組みも課題となりそうだ。
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