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肉食魚のエサが巨大金魚に成長! 潜伏7年、驚きの“サバイバル生活”

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肉食魚のエサが巨大金魚に成長! 潜伏7年、驚きの“サバイバル生活”

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浄化槽で体長25センチまで成長した“脱走金魚”  三重県志摩市の水族館「志摩マリンランド」の浄化槽で4月、体長25センチ、体重360グラムの巨大金魚が見つかった。関係者が経緯などを調べたところ、もともとはアマゾン川流域に生息する世界最大の肉食淡水魚「ピラルク」のエサだったが、水槽の排水口から“脱出”。地下の浄化槽まで逃げ延びて潜伏していたとみられる。その期間は、実に7年以上に及ぶという。暗闇の中で潜伏していたためか、赤い色素が抜けて“黄金色”に輝いているようにも見える。飼育員らも「奇跡」と驚いた。(川西健士郎)

 「ピラルクのエサ」必死に“脱出”?

 「大きな魚がいる。なぜ…」

 4月5日、ピラルクを飼育している水槽の地下にある浄化槽(縦5メートル、横3メートル)を清掃していた飼育員が魚影を見つけ、思わず作業の手を止めた。網ですくい上げると、巨大な金魚が姿を見せた。

 いったい、どこから金魚が紛れ込んできたのか-。

 このミステリーを解くヒントは、里中知之館長の証言に隠れていた。

 「実は、7年ほど前までピラルクのエサは小さな金魚だったんです。現在では固形のエサを与えているんですけどね」

 「世界最大の淡水魚」ピラルクは「生きた化石」とも呼ばれ、古代魚の展示に力を入れている同水族館でも目玉展示の一つになっている。大きいものは全長3メートルを超え、水槽を悠然と泳ぐ姿とは裏腹に小魚を主食とする肉食魚としても知られる。

 飼育員らがピラルクの水槽を確認したところ、水面付近にある排水口に直径約1センチの穴が無数に空いていることがわかった。もともとは水中のゴミを吸い取るためのものだが、どうやらこの穴をすり抜けてプラスチックの管を通り地下の浄化槽まで流れ落ちたとみられる。

 当時、ピラルクの水槽に放っていた金魚は体長3センチほどが多かったといい、「驚いて必死に逃げたのかもしれませんね」と里中館長は苦笑いを浮かべた。

 「逆流」に耐え、快適な環境で成長

 こうしてピラルクから命からがら逃げ出した金魚だが、浄化槽ではかなり快適な生活を送っていたようだ。

 深さ30センチの浄化槽の底には砂が敷きつめられている。そこには、ピラルクの水槽から固形エサの残りカスなどが絶えず流れ落ちているという。

 飼育員の出口大輔さん(20)は「残りカスといっても栄養バランスはばっちり。ピラルクの糞から有機物のバクテリアをエラでこし取って食べていたとも考えられます。食生活は相当恵まれていたと思いますよ」と解説する。

 しかし、金魚にとっては安住の地のようにみえても、実は何度も身の危険にさらされてきた。浄化槽にたまったゴミを除去する月1回程度の清掃作業「逆流」だ。

 水を逆流させることで砂にたまったゴミを水中に散らし、濁った水を流してしまう。「身体の小さい金魚が一緒に流されてもおかしくありません。一度も流されなかったのは奇跡」と出口さんは目を丸くする。一方、定期的に逆流を行うことで水中に酸素を送り込む効果があり、金魚にとっては快適な生息環境が維持されたとみられる。

 地下にある浄化槽は普段は真っ暗闇で、飼育員らは投光器を片手に作業している。そんな飼育員らの目さえもかいくぐり、金魚はすくすくと成長した。「魚がいるとはまったく想像できなかった」と出口さんは話す。

 エサから看板に…驚異の“出世魚”?

 〈小さな金魚の大脱走〉

 同水族館は春季特別展「春らんまん 金魚ワールド」で、浄化槽で発見した金魚をこんなキャッチフレーズで5月31日まで展示した。

 体色は黄色がかっており、どこか黄金色に輝いているようにも見える。専門家らによると、真っ暗闇の中で育ったため光が不足し、もともとの赤い色素が抜けた可能性があると指摘している。お祭りの縁日などではおなじみの金魚だが、環境さえ良ければ20年以上も生きることができ、体長も30センチ程度まで成長するという。

 金魚を観賞した人のなかには、光の当たらない場所で孤独に暮らしてきた境遇に共感したとの声もあがっているという。

 同水族館では、飼育記録世界一(1万243日)を保有していた「ホシエイ」が昨年5月に死に、さらに3日後には背中に「寿」の文字が入った「寿カンパチ」が死んだ。

 同水族館を支えていた「看板魚」を相次いで失っただけに、今回の巨大金魚発見は大きな話題を呼びそうだが、里中館長は自重ぎみに話した。

 「エサ用の金魚を“看板魚”にするのは少し気が引けます。だから、こっそりと展示を再開したい」

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