【IT風土記】富山発 「クローン文化財」で伝統工芸を活性化 東京芸大と高岡市、国宝を復元
更新デジタルと伝統工芸の融合
では、クローン文化財の「釈迦三尊像」はどうやってつくられるのか。
まずは、法隆寺などの協力もと実物の釈迦三尊像に縞パターンをプロジェクターで投影し、2台のCCDデジタルカメラで撮影する3D計測を行う。仏像と光背の隙間のような、デジタルカメラでは撮影できない部分については、東京芸術大学が長年培ってきた仏像に関する研究データと知識で類推し不足したデータを補いつつ解析を進め、そのデータを3D復元してから3Dプリンターで出力。こうして像の原型を製作した。その後蛍光エックス線で金属分析成を行い、釈迦三尊像に含まれる微粒な成分解析をおこなった。
釈迦三尊像は台座から大光背(こうはい)の最上部まで4メートル近い高さがある。また、中尊の釈迦如来坐像に2体の菩薩像を脇侍(わきじ)に従えた複雑な形状だ。すべての形状を測定するにも、国宝なので触れることもできなければ動かすこともできない。計測できないところは目視で補い原型を完成させた。「デジタルだけではこの復元は不可能。デジタルとアナログの融合があるからこの作品はできたともいえる」と宮廻教授は説明する。
この原型をもとにした鋳造作業は、伝統工芸高岡銅器振興協同組合の5つの鋳造会社が分担した。中尊、両脇侍、大光背、脇侍光背それぞれに最適な鋳造方法を選び、その鋳造技術に長けた会社が担当したという。
大光背の鋳造を担当した組合の梶原寿治理事長は「さまざまな文化財の修復にかかわってきたが、今回は1400年の歴史の重みが大きなプレッシャーになった」と語る。現物の忠実な再現が求められたが、計算すると、実物の重さよりも20~30キロ重くならざるを得ず、「実物に近づけるのは難しいチャレンジだった」と振り返った。