高額薬再び 大きなリスクか小さなリスクか

(上)人生突然の不運 公的医療保険が拠り所

 患者の免疫機能に働きかける血液がんの治療製剤「キムリア」が日本でも承認され、今月にも公的医療保険で使えるようになる見通しだ。課題は、米国で1回5千万円以上ともされる価格。日本での価格は未定だが、税や健康保険料への影響を心配する声もある。誰でも、手頃な価格で高度な医療を受けられる国民皆保険は維持できるのか。

 昨年10月、まだ日本に登場していない薬をめぐり、財務省と厚生労働省が激しく火花を散らした。

 仕掛けたのは財務省だ。予算の方針を検討する「財政制度分科会」に、米国で登場した3つの高額薬と価格に関する資料を提示。「公的医療保険から外すことも含めた検討が必要」としたのだ。3つとは、血液がんの治療製剤の「キムリア・米国で1回の治療に約5400万円」と「イエスカルタ・同4200万円」、遺伝性網膜疾患治療薬「ラクスターナ・同9700万円」。財務官僚の脳裏には、膨らむ医療費が将来世代の借金になるという懸念がある。

 厚労省は翌日、反撃に出た。公的医療保険について議論する「医療保険部会」で、保険局の田宮憲一薬剤管理官は「わが国では国民皆保険の下、『有効性や安全性が確認された医療であって、必要かつ適切なものは保険適用する』を基本に対応している」と強調。財務省の資料にあるキムリアの米国での価格は「5560万円」と“修正”し、日本での患者は年に約250人程度であることから「市場規模は100億円から200億円程度」だと踏み込んだ。

 100億~200億円という額は、抗がん剤のオプジーボが当初、患者1人に年3500万円かかり、市場規模1兆7500億円とも言われた額の100分の1。薬の価格は1人分に注目するのではなく、総額でいくらかかるのかという市場規模が重要だと訴え、再考を促したのだ。厚労官僚の脳裏には、公的医療保険から高額薬を外せば、富裕層以外の患者が効果のある治療を受けられなくなるという危機感がある。

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