高論卓説
謄本の束が不要に 「法定相続情報証明制度」利用の勧め
これらを必要な手続きの数だけそろえるだけで、かなりの労力である。しかも、これらをそれぞれの手続き窓口の担当者が確認するために長時間待たされなければならない。これでは、預金や不動産の価格が僅少なときは放置してしまうのが人情だろう。
相続手続のこのような煩雑さは相続登記が未了のまま放置されている不動産の増加、所有者不明土地問題や空き家問題の一因となっている。そこで、A氏のケースでは、2017年5月に創設された法定相続情報証明制度を利用してみた。法定相続情報証明制度は、法務局(いわゆる登記所)に被相続人の除斥謄本や相続人の戸籍謄本をとりまとめて、併せて相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を提出すると、法務局の登記官がその一覧図に「これは、年月日に申出のあった当局保管に係る法定相続情報一覧図の写しである」という認証文を付した写しを交付するものだ。手数料は無料である。
それぞれの相続手続きでは、戸籍謄本の束をそろえて確認してもらう代わりに、この証明書を1枚提出するだけで足りる。ある窓口の担当者からは、「古い戸籍の筆書きの漢字を判読するのは大変なので、この証明書を出していただいて本当に助かります」と言われた。相続人が多いケースではとても便利な制度であると感じた。
◇
【プロフィル】古田利雄
ふるた・としお 弁護士法人クレア法律事務所代表弁護士。1991年弁護士登録。ベンチャー起業支援をテーマに活動を続けている。東証1部のトランザクションなど上場企業の社外役員も兼務。東京都出身。