寄稿

もはや気候変動、地球温暖化ではなく「気候危機」「地球過熱化」

 言葉で社会の見方が変わる

 同紙の用語集はアルファベット順に辞書のようになっており、年に数回改訂されています。それぞれの言葉に書かれている改訂理由は、時代の変化を反映しており、とても興味深い内容です。ほかには例えば、biodiversity(生物多様性)がwildlife(野生生物)に改訂されました。理由は「生物多様性よりも野生生物と言ったほうがこの概念の中に“生き物”が含まれていることが明確になる」からだそうです。

 「気候変動」を「気候危機」と言い換えることは、問題を言い表す言説を変えることになります。言説とは「言葉によって表現されたもの」です。気候変動という事象をどのような言葉で表現するかによって、社会の中でその問題をどのような枠づけ(=見方)にするか決めることになります。

 例えば、日本で大きな問題になっている「少子化問題」を見ますと、多くの欧米先進国では、少子化対策という政策概念がなく、「家族政策」「児童政策」として実施されています※3。「少子化」と枠づけすると、日本ではどうしても女性に焦点があたる政策対応になってしまいます。このように、どのような言説を用いるかによって、社会の見方や国の政策の方向性が決まるような力を持つことになります。

 世界では多くの科学者やリーダーたちが気候変動の言説を変えてきています。国連のグテーレス事務総長は2018年9月に「気候危機」という言葉を使い、世界に対策を加速するよう訴えています。英国気象庁で気候研究の第一人者であるリチャード・ベッツ氏は「地球のエネルギーバランスが変化しているのだから、global warming(地球温暖化)ではなく、global heating(地球過熱化)のほうがより正確だ」と述べています。日本でも東大名誉教授の山本良一氏が「気候非常事態宣言」を訴えています。

 世界では、科学の進展に合わせ、現実に即した言説に変えていく動きが起きています。日本も「地球過熱化」のように言説を変えることにより、対策の優先度を上げていけるでしょうか?

 気象庁は2007年、最高気温が35℃を超える日を「猛暑日」と名付けました。従来は25℃を超える日を「夏日」、30℃を超える日を「真夏日」と呼んでいましたが、35℃を超える日が増えたため新たに「猛暑日」を設けました。近い将来、40℃を超える日が珍しくなくなったら、新たに「炎暑日」といった呼び方ができるかもしれません。

 35℃を超える猛暑日にこの原稿を書いている私にとっても、「地球過熱化」という言葉のほうが実感として近く感じられます。熱中症で亡くなる方が連日報道され、夏休みの小学校のプールも熱中症リスクのため休止になる時代です。このように「地球が過熱化している」という圧倒的な現実の前で、私たちは“地球過熱化”対策をもっと優先度を上げて実施するべきではないかと切実に思います。

 ※1 Carbon Brief

  Exclusive:BBC issues internal guidance on how to report climate change https://www.carbonbrief.org/exclusive-bbc-issues-internal-guidance-on-how-to-report-climate-change

 ※2 The Guardian

  Why the Guardian is changing the language it uses about the environment https://www.theguardian.com/environment/2019/may/17/why-the-guardian-is-changing-the-language-it-uses-about-the-environment

 ※3 増田雅暢(2008)『これでいいのか少子化対策:政策過程から見る今後の課題』ミネルヴァ書房

【プロフィル】小西雅子

 昭和女子大学特命教授。法政大博士(公共政策学)、ハーバード大修士。民放を経て、2005年から温暖化とエネルギー政策提言に従事。

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