家族がいてもいなくても(619)介護の自給自足
ヘルパー学校に通い始めて4カ月。先月末、「介護職員初任者研修」の修了試験を経て、めでたく卒業。「身体介護」ができるヘルパー資格を72歳で取得したのだった。
おかげで食堂に行くたびに、周りから「おめでとう」と寿(ことほ)がれる。「いまさら、よく頑張ったねえ」と褒められる。なんだかとても気恥ずかしい思いをしている。
実は、私は家族の介護を20年もした経験がある。
にもかかわらず、である。資格がないと訪問介護などで家族外の人への「身体介護」ができない。私の介護体験はまったく評価されないのね、と気分がもやもやしていたのだ。
しかも、今はシニアのコミュニティーで暮らし始めている。
いずれ、家族ではないけれど、家族のような人たちとの相互の介護が必要になるに違いなく、「ならば資格をとろう」と思い立ったのだ。
受講費用は、友人と2人、ということで、安くしてくれて1人11万円。高いのにびっくり。受講者を紹介すると、謝礼がもらえるようだけれど、高齢者には、ほかになんの助成もない。
この人手不足の折、老々介護が必要になるはずなのに。
そもそも平成28年度の介護給付費等実態調査によると、なんと65歳以上の高齢者で給付を受けているのは、15・1%、と研修の教科書に書いてある。
元気な高齢者がかくも多数派となれば、高齢者同士での介護の自給自足が可能なのだ。
思えば、受講期間中のこと。
介護実習で行った施設で、夕方、提出をする実習感想文を必死で書いていたら、高齢な男性がやってきて、なぜか隣でせっせとおしぼりをたたみ始めた。
人恋しくなった入居者かなあ、と思って手伝っていたら、夜勤で働きに来たのだという。御年80歳。車を自分で運転して通勤しているとか。
う~む、元気でいさえすれば、この私も80歳まで働いて、介護保険から手当てをもらえるのかも、と思ったら資格取得への勇気がました。
その80歳の先輩に、人手不足の現場の事情をいろいろ教わって別れたけれど、思えば、わが父の晩年、食事介助をしてくれた女性もリタイア後の元職員だった。父の食事介助だけが仕事だったので、楽しそうに話しながら、1時間かけて父に夕食を全部食べさせてくれた。
いずれ、介護の世界はそういうことになる。AI導入で介護ロボットにお世話されるよりは、ずっといいかもなあ、と思う。
(ノンフィクション作家・久田恵)