「神経内視鏡手術」のメリット・デメリット 相談して最適な治療法を
【脳を知る】皆さんは内視鏡検査を受けたことがありますか。内視鏡検査といえば、胃や大腸など消化器の検査を思いうかべる方が多いかと思います。
しかし、内視鏡は消化器以外にも臓器ごと、または使用目的ごとに多くの種類があります。呼吸器内科は気管支鏡、胸部外科は胸腔鏡、腹部外科は腹腔鏡、整形外科は関節鏡、泌尿器科は膀胱(ぼうこう)鏡、その他数多くの内視鏡がおのおのの領域の病気を探したり治療したりする目的に使用されています。
内視鏡は、患者さんに大きな傷を残すことなく治療できることで、格段に普及してきました。
脳神経外科では脳や神経、血管の侵襲(しんしゅう)をおさえるために以前より顕微鏡を用いた手術を行っています。しかし最近では、さらなる負担を減らす目的で神経内視鏡が使用されてきています。
従来は開頭(頭蓋骨を大きく開ける)が必要であった手術を神経内視鏡を用いることで、穿頭(15ミリ程度の小さい穴)で行うことができます。頭皮の傷も3~4センチで済みます。
技術的に難しくなりますが、開頭では到達しにくかった病変に到達でき、手術時間が大幅に短縮、患者さんへの手術中の侵襲が減り、術後の経過も良好になりました。
特に最近普及しているのは、脳内出血の神経内視鏡治療です。脳内出血は多くは高血圧が原因で、脳の血管が破れ、脳内に出血の塊(血腫)をつくります。血腫が大きいと、意識や呼吸、循環の源である脳幹が圧迫され命にかかわるため、血腫を取り除く必要があります。
通常は、大きく開頭して顕微鏡を用いて血腫を摘出する手術を行います。しかし神経内視鏡を用いると、頭蓋骨を穿頭し、そこから神経内視鏡で観察しながら血腫を摘出することで、患者さんへの侵襲もわずかで血腫の除去効果も高く、手術時間も短く終えることができます。
また一部の水頭症(脳に髄液がたまる病気)にも神経内視鏡が応用できます。脳の中には脳室といって髄液をためる空間があります。閉塞(へいそく)性水頭症は髄液の流れがどこかでせき止められて、髄液が脳室に余分にたまり脳を圧迫する病気です。
このような水頭症には、従来は脳室腹腔シャント術という脳室から腹部まで広範囲にチューブを埋め込む手術を行いますが、神経内視鏡で脳の中のある薄い膜に穴をあけ、髄液の新たな通り道をつくることでチューブを埋め込むことなしに治療できます。その他にも下垂体の腫瘍、脳室近くの腫瘍などが神経内視鏡手術の対象疾患となります。
神経内視鏡手術は患者さんへの侵襲が低い利点もありますが、手術操作が難しくなる点もあります。また神経内視鏡手術を行える病院も限られています。担当の医師とよく相談して最適な治療法を選んでいただければと思います。(和歌山 公立那賀病院副院長 脳神経外科 藤田浩二)