受験指導の現場から

塾講師ではすくい切れない孤独 支えるべきは受験生本人より母親のことも

吉田克己
吉田克己

 本稿が今年に入って初めて執筆する記事ですが、2020年は香港の騒乱で幕を開け、爾来、米国によるイラン革命防衛隊司令官の爆殺、イランによる米軍拠点へのミサイル攻撃、ブレグジット、トルコの大地震、新型コロナウイルス…と、惨事・災厄が立て続けです。

 本稿の執筆は1月末ですが、新型コロナウイルス感染者は国内外で今も増え続けており、沈静化する気配は微塵も感じられません。受験シーズンの真っ只中、多くの保護者が不安を抱かれていることでしょう。日本中の受験生の唯一人として発症なきことを願って已みません。

 高校受験を取り巻く変化 5%ほどがシングルマザーか?

 話は、筆者が塾講師を生業にした頃に遡る。と言っても、10年前よりは最近のことである。

 保護者会や個別面談の直前には、たいがい各生徒のクラス分けのためのテストや模試の成績(推移)だけでなく、生徒ごとに志望校や家庭状況などが整理されている台帳も再確認するのであるが、個別面談や台帳確認を通して(当時の筆者にとってはやや驚きであったのだが)「ああ、そうなのか」と認識を新たにしたことが二つある。

 一つは、じかに話をしてみて初めて分かることなのであるが、小学生の生徒の母親に中国系が散見されたこと。もう一つは、公立中学生の母親に、想像していた以上にシングルマザーが多かったことである。きちんとカウントしたことがあるわけではないが、実感値としては、いずれも10%を上回ることはないが5%前後は堅い。

 もちろん、両者ともに地域差があることは承知しているが、「思っていた以上に事態が進んでいるな(世の中が変化しているな)」と感じた。

 しかしながら、塾に通う小学生の母親がシングルマザーであることは稀である。私立中学へ進学させる、そのための塾に通わせる、その経済的負担は決して軽くないことを考えると当然だろう(それはそれで社会的な問題としては軽視できないが)。一方、塾に通ってくる公立中学生の母親がシングルマザーであることは珍しくないものの、母一人子一人という例には出合ったことはなく、母親の両親と一緒に暮らしていて、母親自身はフルタイムで働いているという家庭がほとんどである。

 涙こぼす母親たち セカンドオピニオンがいれば

 塾講師を生業にして間もない頃、個別面談で感じたことの第一は、面談に独りでやってくる母親(生徒は中学生)に、「心身ともに疲れているなあ」といった印象を受けることが少なくないことである。誤解を恐れずに言えば、「くたびれている」感じなのだ。(小学生の母親に精神的に疲れている印象を受けることは稀であり、中学生の母親であっても両親揃って訪ねてくる家庭にも少ない。)

 あれこれ話を聞いているうちに分かってくるのであるが、夫がいようがいまいが、仕事もたいへんながら、子どもの高校受験に関して“独りで”悩んでいることが多い。父親が健在でも、子どもの受験に全くの無関心だったり、受験を気に懸けている母親に対して非協力的だったりすると、母親が子どもの受験に関する悩みや不安を独りで抱え込んでしまうことは大いにあり得る。あり得るのではあるが、なかんずく切実なのは、気持ちをぶつけられる相手がいないシングルマザーと一人息子の組み合わせである。

 実際、シングルマザーに限らず、「家ではちっとも勉強しないんです」「わたしの言うことはまったく聞いてくれず…」「どうすればいいのか分からなくて…」と涙をこぼしそうになる母親を何人も目の当たりにしている。

 そうなってくると、個別面談の場が、学習相談・進路相談というよりは、「受験生の母親カウンセリング」のようになってくる。生徒本人云々の前に、母親を元気づけ、安心してもらわねばならない。

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