日本の議論

アイヌ施策、そのあり方 「帰属意識育む環境を」「欠かせぬ反省と先住権」

 昨年5月施行のアイヌ施策推進法などでアイヌ文化の復興拠点と位置づけられ、国立博物館や慰霊施設などで構成する「民族共生象徴空間(ウポポイ)」が4月24日、北海道白老町(しらおいちょう)に開業する。市町村のアイヌ文化継承や産業振興事業への交付金を柱とする同法は、アイヌを初めて先住民族と明記した一方、先住権を認めていない点などで議論がある。北海道大アイヌ・先住民研究センター長の常本照樹氏と参院議員の紙智子氏に聞いた。

 常本氏「帰属意識育む環境必要」

 --アイヌ施策推進法は、土地や資源などに関する先住民の権利を認めていない

 「例えば土地の権利を認めた場合、誰に返すのか。権利を有する主体としてのアイヌを、集団や個人として特定するのは現時点では難しい。しかし、文化を共有する集団としてのアイヌ民族は存在する。国民一般に関わる法律で、アイヌの人々を先住民族と位置付けたことには大きな意義がある」

 --同法は地域振興が柱だ

 「施策として重要なのは、文化伝承や観光、産業振興などの事業に充てる交付金だ。市町村から事業を受託する団体の構成員は、アイヌが中心になるだろうが、アイヌに限る必要はない。アイヌであるかどうかを問わず一緒に文化を振興することが、民族共生につながる。集団や個人を特定できないという消極的理由だけではない」

 --なぜ特定が難しいのか

 「例えば、アメリカでは先住民の部族が準主権国家として憲法に位置付けられている。先住民族のみを対象とする特別議席や優先的雇用といった政策であっても憲法に違反しない。合衆国は部族と土地の取得に関する条約を結んだ際などに、部族の構成員リストを入手してきた。先住民とは原則として部族の構成員を意味し、各部族はこのリストに遡(さかのぼ)ることで構成員を特定できるが、日本ではこのリストに相当するものがない」

 --道内外の大学が保管するアイヌの人たちの遺骨がウポポイの慰霊施設に集約される

 「世代を経て、子孫は何人もいる。国も大学も遺骨をお返ししたいと願っているが、個人に返還する場合も地域の場合も、どなたにお返しすれば最も適切なのかの判断に時間を要してきた。最初に手を挙げた方にお渡しすれば済むという問題ではないのではないか」

 --ウポポイはアイヌの観光利用だという批判もある

 「アイヌを知らせる手段として観光を捉えるべきだ。民主主義国である以上、アイヌ政策を進めるには国民の理解が必要。アメリカなど人口に占める割合が2%前後と先住民の存在感がある国でさえ、先住民族政策に他の国民から不満が出るが、アイヌは0.03%程度。理解促進に全力を尽くす必要がある」

 --文化振興を図る理由は

 「国民の多数派は幼い頃から自らの文化に親しみ、自分が何者かという帰属意識を育てることができる。そうした環境がアイヌの場合は損なわれており、その原因をつくった国には解決する責務がある。推進法は、どの文化に即して生きていくかをアイヌ自ら選択できる環境整備のための法律だ」

(寺田理恵)

つねもと・てるき 昭和30年、北海道出身。北海道大大学院博士課程修了。法学博士。専門は憲法学。同大大学院教授。平成21年から政府のアイヌ政策推進会議委員、23年から同会議の政策推進作業部会長も務めている。

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