車内に流れる「静寂の音」
東京駅周辺からアクアラインを経由して千葉県富津市を目指す。小島記者が6.6Lの大排気量ユニットに火を入れると、エンジン音を主張することなくひっそりと起動する。というよりも、おそらくふんだんに使っている遮音材と吸音材が、ノイズの侵入を完全にシャットアウトしているのだろう。出発の準備が整うと、初動のショックを微塵も体に伝えることなく、氷上を滑るかのようにスーッと無音で走り出す。もし目隠しをしていたら、アクセルを踏んだ瞬間を感知するのは相当に難しいだろう。そう思わせてしまうほどにすべてがスムーズだ。
後席向けに9.2インチモニターが装備されており、アームレストのコントローラーでインフォテインメントを楽しむことができる。ちょうどお昼時だったので、テレビを起動してニュースや情報番組をザッピング。電波状況が良ければ画像はかなり鮮明だ。車内を暗くしたければ、手元のボタンでリヤやサイドウインドーの電動カーテンをワンタッチで閉めることができる。アームレスト収納スペースの奥にある扉を開けば、なんと冷蔵庫が出現。グラスを収めるホルダーもあるので、いつでもキンキンに冷やしたシャンパンを楽しむことができるのだ。
ゴーストの名は伊達じゃない
肝心の乗り心地だが、結論から言うと極上だった。路面の凹凸やざらつき、ロードノイズはすべてカット。2.5tという超ヘビーな車重を生かしたエアサスの味付けが絶妙で、一般道から高速道路まですべての速度域においてゆったりとフラットな走りを味わえる。まるで浮いているかのようなフワリとした乗り心地は、西洋の幽霊や妖精がヒラリと宙を舞うようなイメージを連想させる。これぞまさにゴーストの所作だ(などと、東京ディズニーランドの「ホーンテッドマンション」のような幽霊を勝手に想像する…)。
硬めに仕上げたレザーシートは体のラインに合わせてクッション材が程よく沈み込み、乗員を気持ちよくサポートしてくれる。シートバックとオットマンはアームレスト側面のスイッチで好みの角度に調節可能。正直に言って、これほど座り心地のよいシートと出会ったのは初めてだ。ロールス・ロイスが長年にわたって後部座席の快適性を第一に追求してきたことを考えれば、至極当然である。すべてをショーファーに委ね、静寂の空間を自分好みにアレンジして思いのままに過ごす-。パッセンジャーにとってこの上ない贅沢な移動手段だ。
ついにハンドルを握る
後席の試乗を終えたところで、今度は筆者が運転席に収まる。ダッシュボード周辺はアルミニウム糸とカーボンファイバーを織り込んだコンポジット材サーフェスを採用。6回のラッカー塗装を重ね、職人が手作業で研磨して鏡面仕上げを施しているという。目や指に触れるところはすべてこの素材、もしくはレザーで覆われている。チープなプラスティックはほぼ見当たらないのだ。
細めの大径ハンドルを握り、ギアを「D」レンジに入れて発進させる。その巨体に似合わず、1mm程度の微細なアクセルワークも確実に加速につながるほど繊細に動くのだが、かといって過敏な印象は全く受けない。ジェントルに伸び上がる加速感はもちろん、上り坂でも意のままに操れる力強いトルク、ハンドル操作に忠実なダイレクトな走行感など、これまで経験したことのない極上のドライブフィールに一瞬で心を奪われてしまった。