教育・子育て

端末争奪戦や通信環境 オンライン授業に高いハードル

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が全面解除となり、1日から首都圏を中心に多くの学校が再開する。学校現場では感染流行の「第2波」に備え、教員と児童・生徒が同時に双方向でやり取りできるオンライン授業の導入準備が加速、継続的な学びの確保に有効なツールとして期待される。だが、通信環境の整備に遅れも目立ち、さらに端末の争奪戦が発生するなど普及に向け課題も残す。

 体育も遠隔で

 「10分間でグループに分かれて英作文をしてみて。では、スタート」

 東京都港区の私立中高一貫校「広尾学園」。緊急事態宣言が出されていた5月中旬、高校2年の教室では英語のオンライン授業が行われ、教員はノートパソコンの画面の向こう側にいる40人の生徒に呼び掛けた。

 テレビ会議システムを使い、生徒は3人1組に分かれて作業。テレワークの外国人補助教員もネット上で各グループを巡回し、助言した。

 同校では4月15日以降、1700人の全校生徒を対象に、実際と同様のカリキュラムをオンライン授業に完全移行した。体育も遠隔で行われ、金子暁(さとる)副校長は「授業の遅れはない。6月の中間試験もオンラインで行いたい」と話す。

 公立校でも平成28年の熊本地震で導入に向けた準備を進めていた熊本市が、4月15日に全小中学校(計134校)に導入。市教育委員会は「この1カ月半で教員も習熟度を深めており、子供同士の学び合いにつながっている」と説明する。

 端末争奪戦

 しかし、双方向のオンライン授業導入のハードルは高いのが実情だ。文部科学省によると、休校した公立校での実施は5%(4月16日時点)にとどまった。

 調査会社のMM総研によると、導入の前提となる教室の完全無線化も小中学校の7割は未整備(3月時点)。東海地方の公立小では「動画を配信しようとしたら校内の通信がダウンした」(教委幹部)といい、通信環境の脆弱(ぜいじゃく)さが感染拡大の第2波に備えたオンライン授業導入への障壁となっている。

 文科省は感染拡大を受け、全公立校に補助金を出して通信環境の確保を求める一方、端末1台につき最大4万5千円を補助し、今年度中に小中学生が1人1台使える環境整備を目指す。しかし、テレワークの増加などで端末の需要が拡大しており、「補助に収まる低価格端末は品薄で、自治体間の争奪戦状態となっている」(MM総研)。

 関東地方の市教委担当者は「1人1台の端末確保を目指して検討を始めたが、今年度中に調達できるかは手探り」と話す。一方で東京都教委は他教委との競合を避けるため、文科省の補助額を上回る金額で端末を選定。6月中旬以降に4万2千台を区市町村経由で児童生徒に貸し出す予定で、自治体の財政力による地域格差も予想される。

 低学年に課題も

 全ての子供に端末が行き渡ったとしても、円滑に授業を進めるには教員のスキル習得が必須だ。学級崩壊などの課題を抱える学校での運用も課題となる。

 また、手厚い学習支援が必要な小学校低学年には不向きな側面もあり、東京都の区立小の女性教諭は「端末を使いこなせず、授業に取り残されてしまう子供は必ず出る。情報リテラシー教育で土台を作り、段階を踏まなければ混乱が生じる」と不安を口にする。

 全小中学校に導入した熊本市でも、対象は小学3年以上に限定。「発達段階を考慮せざるを得なかった」(市教委)との理由だ。

 ネット利用経験は家庭の経済力によって差があるため、義務教育に求められる公平性の観点から慎重さを求める声もある。千葉大の藤川大祐教授(教育方法学)は「学校側が家庭状況を早急に把握し、形式的な平等ではなく、端末を用意できない家庭に優先的に端末を配布するなど学習機会の均一化を進める必要がある」と指摘している。

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