教育・子育て

医療的ケア児の家族で深まる社会的孤立 別居長期化、コスト負担も大きく

 新型コロナウイルスによる被害が社会へ深刻な影響をもたらす中、24時間医療的ケアが必要な障害児とその家族の社会的孤立が強まっている。厚生労働省によると医療的ケア児は全国で約2万人。両親らの負担は大きく、重症化リスクのある子供を守るため、外出を控え、父親が別居生活をする家族も。自宅でのケアに必要な大量の医療物品の郵送サービスもコスト面が問題となって導入が進んでおらず、家族らは制度の改正を求めている。

 医療的ケア児の長女、潤ちゃん(6)を育てる横浜市の主婦、長尾多恵子さん(42)の不安は第2波への警戒がくすぶるなかで増している。感染リスクを減らすために始めた夫(43)との別居生活も2カ月近くになった。

 潤ちゃんは気管軟化症などを抱え、人工呼吸器が24時間、手放せない。食事も胃ろうを通して行う。万が一、コロナに感染すれば、症状が一気に悪化する恐れがある。街は普段の日常を取り戻しつつあるものの、長尾さんは「私たちが日常に戻るわけにいきません。私が感染しても面倒をみてもらえるあてもありませんし…」と悩む。

 感染リスクを避けるため、両親の負担を軽減する訪問看護も断っている。マスク着用で熱中症の危険が増すなかで外出も控えざるをえず、潤ちゃんが大好きな水族館に行くことも今夏はあきらめた。長尾さんは「社会的孤立を強いられています」と打ち明けた。

 新型コロナ感染拡大を受け、厚労省は2月以降、在宅ケアに必要な医療物品を病院から郵送することを可能にする仕組みを整えたが、導入が進まない。

 国立成育医療研究センター(東京)は医療物品の郵送サービスを4月に始めたが、緊急事態宣言が解除された5月に止めた。電話網整備、物品の箱代や仕分けや詰め込みのための人件費などの諸経費を医療的ケア児の世帯に求めることができず、病院側の負担がかさんだからだ。

 厚労省によると、郵送代は保険の適用外のために、実費を徴収できるが、郵送に伴う人件費などは徴収できない恐れがあるという。病院関係者は「(患者に請求できる)『郵送代には付随する手間賃も含む』とするなど、解釈を明確化してほしい」と話す。

 医療物品の一部を自費で購入してきた川崎市の女性会社員(34)は、長女(5)の人工呼吸器に不可欠な精製水の確保に奔走している。コロナ後は消毒液作成のためなどで一般の需要が増え、店頭から消えたとみられるという。

 医療的ケア児の長男(2)を育てる川崎市の会社員の女性(31)は感染リスクを減らすため、長男にレインコートを着せて通院しているといい、「(郵送サービスの)費用は負担してもいいんです。少しでも外出を減らせればいいのですが…」と訴えた。(荒船清太)

 医療的ケア児 人工呼吸器を使用したり、胃に直接栄養を送り込む「胃ろう」を施したりするなど、日常的に医療ケアが必要な障害児。医療の発展に伴い、新生児集中治療室(NICU)で救命される例が増え、近年、増加傾向にあり、厚生労働省は平成30年時点で約2万人いると推計している。症状が異なることから、適用される支援制度も個別に違う。

Recommend

Biz Plus

Ranking

アクセスランキング