宇宙開発のボラティリティ

熾烈化するサンプルリターン競争 宇宙は「観測」から「直接分析」の時代へ

鈴木喜生
鈴木喜生

 ▼アポロと同時期にソ連も成功していた

 旧ソビエト連邦は、有人での月探査においてはアメリカに後れを取りましたが、アポロ計画とまったく同時期に行われたルナ計画では、無人探査機による月からのサンプルリターンに成功しています。それはアポロ13号と14号の打ち上げの間、1970年9月のことで、「ルナ16号」が101gの月の土壌を地球へ持ち帰りました。ルナ16号のサンプル採取のメカニズムは驚異的であり、下の動画でそのシークエンスをみることができます。

 【旧ソ連の「ルナ16号」による月からのサンプルリターン】

 ▼確実視される「月の水」と宇宙滞在への期待

 これまでの各国の探査によって、月に氷があることが確実視されています。NASAの月探査機「クレメンタイン」(1994年打上、以下同)や「ディープ・インパクト」(2005年)などの調査では、月の極に氷があることを示唆され、インドの「チャンドラヤーン1号」(2008年)、NASAの「ルナー・リコネサンス・オービター」と「エルクロス」(ともに2009年)の調査でも、「月には水がある」との結論に至っています。

 NASAのアルテミス計画では、月面基地の建設も予定されていますが、もし月に氷や水があれば、ヒトが必要とする水分だけでなく、ロケットの酸化剤も現地調達できることになり、月面基地の建設予定地にも影響を与えます。サンプルを持ち帰るだけでなく、現地で調達し、宇宙滞在のために活用する計画の実行が、すぐ目前まで迫っているのです。

 【NASAのアルテミス計画】

エイ出版社の現役編集長。宇宙、科学技術、第二次大戦機、マクロ経済学などのムックや書籍をプロデュースしつつ自らも執筆。趣味は人工衛星観測。これまで手掛けた出版物に『これからはじまる宇宙プロジェクト』『これからはじまる科学技術プロジェクト』『零戦五二型 レストアの真実と全記録』『栄発動機取扱説明書 完全復刻版』『コロナショック後の株と世界経済の教科書』(すべてエイ出版社)など。

【宇宙開発のボラティリティ】は宇宙プロジェクトのニュース、次期スケジュール、歴史のほか、宇宙の基礎知識を解説するコラムです。50年代にはじまる米ソ宇宙開発競争から近年の成果まで、激動の宇宙プロジェクトのポイントをご紹介します。

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