まさかの法的トラブル処方箋

児童虐待かどうか、判断を避ける裁判所 結婚が破綻…そこに潜む法律の“罠”5

上野晃
上野晃

 「総合的考慮」の落とし穴

 これまで4回にわたって、家族そして子供に関わる法律の現代的問題を取り上げてきました。今回は、このテーマの最終回となります。

 今回、私が取り上げたいのは、「フレンドリーペアレントルール」です。ご存じない方も多いと思います。フレンドリーペアレントルールとは、離婚する際、他方の親と子供との関係により寛大な態度を示した親の方を親権者あるいは監護権者とするという原則です。寛容性の原則とも言われています。

 例えば、一方の親をAさんとしましょう。Aさんが「自分が親権者になったら他方の親と子供との交流は月に一回しか認めない!」と言っているとします。そしてもう一方の親、Bさんとします。Bさんは「私はもし親権者になったなら、他方の親と子供との交流について毎週末、宿泊付きで認めますよ」と言っていたとします。明らかにAさんよりBさんの方が他方の親と子供の交流に寛容なわけです。この場合、裁判所はBさんを親権者とすべきとなります。

 ただ、この原則に対しては、こんな批判があります。

 「親権者を決定する基準としては画一的すぎる。もっといろいろな要素を検討して判断すべきだ」

 家庭裁判所もこうした観点から、さまざまな要素を総合的に考慮して判断すると言っています。しかし、こうした「総合的考慮」という基準には落とし穴があります。

 例えば、ステーキと焼き肉、どちらが優れた食べ物か、あなたが決定しなければならないとします。肉の厚み、焼き時間、価格、店舗の数などを「総合的に考慮」したらどうなるか。肉の厚みで言えば、明らかにステーキの方が上です。焼き時間の長短で言えば、焼き肉の方が短いので優れているでしょう。価格はどっちもどっちといったところでしょうか。店舗の数はどちらかと言えば焼き肉店の方が多いでしょうか。

 で、結論は? 人によって違ってくると思いませんか?

 そうなんです。「総合的に考慮」するやり方は、どの考慮基準に重点を置くかによって、まったく違う結論になるのです。例えばあなたが、「やっぱり肉の厚みが一番こだわりたいところ!」と思えば、ステーキの方が圧倒的に優れているということになるでしょう。

 しかし、「いやいや、焼き時間が短いのが大事だよ」ということであれば、文句なしで焼き肉になるでしょう。「総合的に考慮」というのは、結局、どの要素を重視するかで結論が正反対になり得る基準なのです。

 児童虐待であろうとなかろうと…

 さて、家庭裁判所の話に戻りましょう。家庭裁判所は「総合的に考慮して」親権を決定すると言っています。しかし、実際には母親が子供を連れて家を出た場合、ほぼ100%と言っても過言ではない確率で母親が親権者になります。裁判所が最も重視しているのが、「子供の成育環境の維持」にあるからです。いわゆる「継続性の原則」というものです。

 私が代理人として扱ったケースでも、裁判所自らが命じた月1回の面会交流の実施を拒否する母親の監護権について、1審の家裁は父親が求める監護者変更を退けました。私は、父子を断絶させることは、児童虐待だと主張しましたが、裁判所は、「子供が現在の環境になじんでいる」として、監護者を母親のままとしました。

 そして、「父子の面会交流実施を拒んでいることは許されるべきでないが、それが児童虐待であろうとなかろうと、監護権者が母親であるとの結論に変わりはない」と言いました。

 驚きませんか?

 児童虐待であろうとなかろうと結論は変わらない?

 いやいや、児童虐待だったとしたら、そりゃ監護権者のままにしちゃダメでしょう。裁判所は、父子の面会交流を拒絶する母親の態度が児童虐待かどうかの評価から逃げたのです。

 

Recommend

Biz Plus

Ranking

アクセスランキング