スポーツ・健康のいま

運動しないのは遺伝子のせい? ハードルを低く設定して、できることから

 今、こちらを読まれている皆さんは“健康のために運動が良い”ということはよくご存じだろう。身体活動量を増やし、運動を実施することで、生活習慣病をはじめ、がんや認知症の発症リスクを下げられることは広く知られている。

 では、皆さんのうちどれだけが実際に「運動」をしているだろうか。厚生労働省が実施した令和元年の国民健康・栄養調査によると、習慣的に運動する人の割合は約3割にとどまり、運動を行動として起こすことの困難さがうかがえる。

 実は、このような「運動行動」は一部、「遺伝」の影響を受けていることが明らかになっている。オランダで約5万人の双子を対象に行われた研究で、運動行動の違いの34~41%が遺伝的な要因によってもたらされたと報告された。

 ヒトの遺伝情報は文字にすれば新聞約45年分にもなる膨大なものだが、私たちは、その中でも「レプチン受容体遺伝子」という摂食行動に関わる遺伝子の違いが運動行動の個人差に関与している可能性を示した。脳で感情や意欲に関わる「ドーパミンシステム系」の遺伝子が関与している可能性も指摘されており、これら目に見えない遺伝子上の個人差(遺伝子型の違い)が、さまざまな生体内のメカニズムを介して「運動行動」という、目に見える事象に差をもたらしていると思うと興味深い。

 こんな話をすると、「じゃあ、私の運動が続かないのは遺伝子のせいだから、しようがない」という人もいる。運動をするかしないかは、自身の遺伝子型によって一部影響を受けているが、逆にいうと、残りの半分程度は環境の違いによるということでもある。近所にウオーキングコースがないかを調べたり、運動靴を目につきやすいところに置いたりするなど運動行動を誘発しやすい環境に身を置くことが効果的だ。また、運動は長時間行うよりも、細切れで行うことで継続しやすくなり、体力の向上や血圧低下といった身体の改善も見込めることが研究で分かっている。ハードルを低く設定し、できることから始めてみよう。

 「運動行動」の違いにおける遺伝的な要因や、運動行動を誘発する生体内メカニズムの解明が進めば、遺伝的に運動行動が起きにくい人への重点的な支援や、誘発・習慣化のためのアプローチ方法の開発につながり、多くの人のアクティブライフの実現を可能にすることが期待されている。

【プロフィル】村上晴香(むらかみ・はるか) 広島女子大を卒業後、筑波大大学院人間総合科学研究科で博士号(スポーツ医学)を取得。国立研究開発法人「医薬基盤・健康・栄養研究所」を経て、令和2年4月に立命館大スポーツ健康科学部の教授として着任した。滋賀に来てからはキャンプにハマり中。

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