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停電時の「医療継続の生命線」 大阪市内の病院で非常電源半数超が点検されず

 非常用電源(自家発電機)を持つ大阪市内の病院の半数超が、消防法で義務づけられた点検を実施していなかったことが9日、大阪市消防局などへの取材で分かった。病院の非常用電源は医療機器の電力などもまかない、災害による停電時の医療継続の生命線になりうる。消防は行政指導を実施しているが、現場には負担感もあり点検率は伸び悩んでいるという。

 未実施の点検は、実際に送電した場合の異常の有無を調べる「負荷運転」で、年1回の総合点検の法定項目の一つ。発電機の運転性能を確かめる重要な点検で、消防庁によると、未実施であれば災害時に作動しないおそれがある。

 ただ負荷運転をめぐっては、点検時に施設の停電が必要な場合もあり、現場から「負担が大きい」との声が相次いでいた。消防庁は平成30年に告示を改正し、発電機を分解して行う詳細な内部観察で負荷運転に代えることなどを認めた。

 しかし、昨年5月末時点の大阪市消防局のまとめでは、負荷運転が義務づけられた自家発電機を持つ市内128病院のうち、68病院がいずれの点検も実施していなかった。

 災害時の医療体制の中核となる「災害拠点病院」での未点検はなかったが、同病院と協力し、患者を率先して受け入れる「災害医療協力病院」での漏れが目立つ結果となった。未点検だった複数の病院は取材に対し、「点検業者任せだった」「義務との認識がなかった」「病院は停電させられない」などと回答した。

 30年の北海道地震に伴う全域停電(ブラックアウト)では、376病院が停電した。10年前の東日本大震災でも、被災地中心部の建物で、23台の防災用自家発電機が整備不良のため動かなかったり、異常停止したりした。

 大阪市消防局は「点検の不備は人命に直結する。災害弱者を抱える病院であれば、義務を果たす意識を高く持つべきだ」とした。

 業者任せ 薄い危機意識

 「当時、義務という認識はなく、負荷運転は行っていなかった」。2年前から負荷運転の点検を実施する国立病院機構大阪医療センター(大阪市中央区)の担当者はこう明かす。

 改めたきっかけは平成30年の大阪北部地震。当時、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)では自家発電機が運用できず、人工呼吸器が必要な重症患者らを別の病院に搬送する事態となった。センターはその後、停電して行う発電機の年1回の法定点検を、少なくとも5年間実施していなかったと明らかにした。

 トラブルを受け厚生労働省は、全国の病院に各種法令に基づく点検の徹底を求めたが、施設の停電を伴う負荷運転による点検には大掛かりな調整や人員、費用が必要とあって、点検に消極的な施設は少なくない。

 ある点検業者は「病院側が点検の実施を敬遠している」と漏らす。一方で停電せずとも、ケーブルでつないだ専用の装置内に送電し、発電機の作動を確認する手法もあるが、技術的な課題もあるとされる。

 こうした実情を踏まえ、発電機を分解して内部を点検することで負荷運転に代えるなどの手法も認められるようになったが、それでも大阪市内の半数超の病院では「違反状態」が続く。

 未点検だった病院の担当者は「停電を伴う負荷運転は難しいと思っていたが、ほかの方法は知らなかった。業者に任せきりだった」と認識不足を認めた。

 自家発電機の点検・保守を担う一般社団法人「消防管理協会」(大阪市)の宮田孝清代表理事は「これだけ災害を経験しても、病院の危機意識は変わっていないということではないか。点検せずにトラブルが起きれば人災だ」と訴える。同協会では点検業者に負荷運転の技術指導を行うほか、点検の確実な実施を求める啓発活動にも力を入れる。

 一方、消防によるチェックの限界も浮上している。大阪市消防局によると、同市の場合、受理する点検報告書は10万件超に及ぶ。スプリンクラーや自動火災報知設備の未設置といった重大違反も少なくなく、「緊急性の高い違反の是正から徹底しているのが現状」(消防関係者)という。

 元消防庁幹部で東京理科大の小林恭一教授(消防防災行政学)は「消防行政を効率化するため、点検は国家資格を持つ業者が行う制度になっている。点検項目を守れないなら、資格剥奪も検討すべきだ」と点検業者にも厳しい目を向ける。(西山瑞穂、石橋明日佳)

 ■自家発電機 延べ床面積が千平方メートル以上の病院などの施設は、自家発電機などの非常用電源の設置が消防法で義務づけられている。停電時に自動的に電源が切り替わり、燃料を燃やしてエンジンを動かし発電する。

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