地方変動

第1部・溶ける自治体(1)もう東京でなくてもいい 「コロナ時代」の到来

 総務相主催の研究会「自治体戦略2040構想研究会」の報告によれば、2040年の日本は、人口がピーク時(08年)から1千万人以上減らして1億1092万人となる。団塊の世代が生まれたころ(昭和22~24年)に年間260万人を超えていた出生数は74万人程度になるとみられ、65歳以上の高齢者は2042年に3935万人(高齢化率約36%)に達するという。同じころにはインフラの老朽化も集中すると予想されているが、人手が足りない恐れがある。こうした未来に、成長を前提にした将来設計はできない。地方はアップデートする必要がある。

 町で顔認証実験

 古くから温泉地として知られる和歌山県白浜町も近年、急速に変貌を遂げている。そしてこちらも徳島県神山町と同様、新型コロナウイルス禍により注目度が増している。

 良質なリゾートタウンで、東京から飛行機で約1時間という強みを生かし、観光地で休暇を楽しみながらテレワークに励む「ワーケーション」の最適地とPR。平成29年度からの3年間で104社910人がワーケーションを実施した。ビジネスルームを整備した宿泊施設「ホテルシーモア」を運営する白浜館の松平哲也・予約センター長(47)は「こうした動きはうちだけではない。周辺では共有キッチンやリビングがあってワーケーションができる宿泊施設ができてきている」と打ち明ける。

 町では顔認証システムを使った大規模な実証実験も行われている。南紀白浜空港の運営会社「南紀白浜エアポート」と電機大手NECなどが実施。スマートフォンで顔写真やクレジットカード情報などを事前登録しておけば、町内の施設でさまざまなサービスが受けられるもので、レジャー施設「アドベンチャーワールド」では顔認証でチケットが購入でき、ホテルシーモアの客室は鍵がなくても「顔パス」で入室できる。

 コロナ禍で観光客を奪われたが、ワーケーションという新常態(ニューノーマル)に活路を見いだした。非接触はコロナとの共生に欠かせない。そこには白浜町のレジリエンス(回復力)も感じられる。

 競争より連携

 徳島県神山町と和歌山県白浜町。2つの町は期せずしてデジタル化を進めていたことで人が集まり、未曽有のコロナ禍にもしなやかに対応できた。そこには、デジタル化こそ地方再生の処方箋、という確信めいた認識があったのだろう。

 ただ、和歌山県情報政策課の大谷信一朗主任(46)はこう指摘する。「単に観光と仕事ができる環境の整備だけでは、人を呼び込む理由としては弱い」。念頭にあるのは限られたパイをめぐる地方の競争激化だ。例えばワーケーション。同県が運営する「ワーケーション自治体協議会」の参加自治体数は、令和元年の65から、今年1月21日現在、倍以上の166に増えている。

 さらに、昨年は東京への人口集中が鈍ったとはいえ、転出先の上位は埼玉、千葉、神奈川といった近郊だ。地方への波及効果は限定的かもしれない。

 国の地方制度調査会は昨年まとめた地方行政のあり方についての答申で「組織や地域の枠を超えて連携し合う社会を構築するのが重要」とした。競争よりも旧態依然とした地方や自治体の枠組みを溶かし、連携していくことが地方や国の未来につながるという。野村総合研究所の神尾文彦・主席研究員も「コロナが収束しても東京一極集中に戻るべきではない。地方の衰退を防ぐためには本格的な人の分散が必要で、国も企業移転やデジタル化などで地方を支援すべきだ」と強調する。

 地方がいま大きく変動しようとしているのは、人口減少や超高齢化、インフラの限界など迫りくる危機への対応を急ぐためだ。それにコロナ禍が拍車をかけた。地方を生かすことは、国を生かすことでもある。芽生え始めた地方変動の潮流をどう生かすかは、国家的な課題である。

◇◇◇◇◇

 超高齢化と人口減少で苦境にある地方に、地殻変動が起きている。新型コロナウイルス禍が都市部への人口集中に歯止めをかけ、急速なデジタル化も地方の弱みを消し始めた。変動する地方の姿を追い、地方再生、そして日本再生を考える。((2)は明日3月16日に掲載します)

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