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北海道、市町村の9割「人里にヒグマ出没」 脅威感じるも侵入経路断てず

 市町村の9割超で人里にヒグマが出没-。こんな結果が総務省北海道管区行政評価局の調査で分かった。ヒグマは北海道のほぼ全域に生息し、近年は市街地で出没が多発。繁殖期の5~7月は行動範囲が広がり、住民を脅かす騒動も起きている。調査結果からは、ほとんどの市町村が出没を脅威と感じながら、人里への侵入経路を断つ“予防”が難しい実態も明らかになった。何が課題となっているのか。(寺田理恵)

 道路を悠々と歩くクマ

 畑にいる2頭のヒグマは、北海道庁職員によって撮影された。「珍しい光景ではない」といい、別の写真ではヒグマが道路を悠々と歩いている。

 ヒグマは国内最大の陸上動物で、本州に生息するツキノワグマより大きい。例年、山菜取りで山に入る住民が増える4~5月に人身被害が多発するため、道は「注意特別期間」として遭遇を避ける基本ルールなどの注意喚起を行ってきた。

 しかし、山に入らなくてもヒグマと遭遇する恐れがある。令和元年夏には人口200万都市・札幌の住宅街をヒグマが歩き回り、公共施設が閉鎖される騒動に。繁殖期は雄の行動範囲が広がるほか、子連れの母クマが雄の求愛を避けようと市街地へ逃げるケースがある。

 火山と湖で知られる道内有数の観光地、洞爺湖町では昨年6月から7月にかけヒグマが出没する騒ぎが発生した。「5年ほど前まで出没は少なかったが、昨年は街の近くに出た。散策路などを一時閉鎖し、修学旅行に影響があった」と同町の鳥獣対策担当者。

 同町は人里に出てきたヒグマを山へ帰すため、日頃からハンターや専門家のいる大学と緊密に連携し独自の対策をとっている。出没を受け町は住民や観光客の安全を確保するため、ヒグマの動きを追跡した。

 目撃情報を基に自動撮影カメラを設置し、1頭の雄が若い雄2頭をなわばりから追い出す様子を捉えた。3頭の体格や体毛の特徴を把握して、防災無線で住民に出没場所を知らせるなどの策を講じた。

 「過去5年間で増えた」

 人とヒグマとのあつれきが深刻化し、「生息数の維持に配慮しながら適切な管理を行うことが一層求められている」として、道管区行政評価局はヒグマ対策の現場の実態調査に乗り出した。対象は道内179市町村全てで、昨年10月から今年3月に実施。173市町村が回答した(回収率96・6%)。

 調査結果によると、173市町村のうち94・8%が「人里でヒグマが出没している」。過半数が「過去5年間で出没が増えた」と回答した。ヒグマの出没や農業・家畜・人身被害を「脅威」と感じている市町村も94・2%に上った。

 多くの市町村が出没原因の一つに挙げたのが、耕作放棄地の増加だ。調査担当者は「農家の高齢化で耕作放棄地が増え、ヒグマの生活の場と人里との境で草が伸びている。ヒグマが隠れて人里に侵入できる経路になる」とする。

 ヒグマが出没したときには、ほとんどの市町村が出没情報を住民に周知。頻繁に出没する「問題個体」の捕獲を行う市町村は少なくない。ところが、人里への侵入経路を断つ出没予防策が、あまり実施されていない実態も、調査結果から浮かび上がった。

 草刈りの人手不足

 ヒグマの侵入経路を遮断する対策として、農地と森林の境界の草刈りを行っている市町村は20・8%にとどまった。9割の市町村で専門的な知識や経験をもつ職員がいない上、草刈りを行う住民も含めた地域のマンパワーや予算が不足しているとする市町村が多かった。

 調査担当者は「民有林や国有林と耕作地との境目は、所有者が分かっていれば草を刈って人とヒグマとの緩衝地帯を設けることができる。しかし手間とお金がかかる」と指摘する。

 同じく侵入経路となる河畔林などの伐採を行う市町村は、わずか6・9%。河川ごとに国や道、市町村と管理者が異なるため、河畔林では連携が必要となり、市町村が足踏みしているとみられる。

 こうした課題への対応として、行政評価局は市町村による対策事例を集めた資料集を作成。出没予防策では、音で鳥獣を追い払う動物駆逐用煙火などを紹介している。担当者は「必要な手続きや資格なども示したので参考にしてほしい」と話している。

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