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「しゃがめよ」撮り鉄が中学生に重傷負わす 過激な行動に鉄道ファンも苦悩

SankeiBiz編集部
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 列車の撮影に熱心な「撮り鉄」と呼ばれる鉄道ファンによるトラブルが後を絶たない。線路敷地内への無断侵入や列車の運行妨害などの問題だけでなく、年内に引退するとみられている旧国鉄時代の車両の撮影をめぐり、ついには傷害事件にまで発展した。トラブルを避けるために「さよなら列車」の運転を見合わせた鉄道会社もあり、鉄道愛好家団体は「結局は自分の首を絞めることになる」として、行き過ぎた一部ファンによる暴走に頭を抱えている。

 「ネタ列車には近寄らん」

 事件は今月25日午後5時20分ごろ、埼玉県川口市のJR西川口駅ホームで発生した。ある列車の撮影に来ていた鉄道ファン同士がトラブルになったのだ。その列車とは臨時快速「あしかが大藤まつり号」。旧国鉄時代の車両「185系」で運転されるとあって、西川口駅のホームには鉄道ファン約10人がカメラを構えていた。185系は東京と静岡・伊豆半島を結ぶ特急「踊り子」のほか、廃止された夜行快速列車「ムーンライトながら」などとして走ってきたが、今年3月に定期列車から引退していた。

 県警川口署によると、10~20代の男は前にいた男子中学生にしゃがむよう注意したが応じられなかった。首元をつかんだところを、別の男子中学生がスマートフォンで撮影しているのに気付き、押し倒したとされる。押し倒された男子中学生は頭蓋骨を折る重傷を負った。川口署は傷害事件として逃げた男の行方を追っている。

 ツイッターには事件当時の様子を撮影したとみられる映像が投稿されている。立派な望遠レンズを装着した一眼レフカメラを持つ男性が、男子中学生に向かって「しゃがめよ」「後ろのこと考えろよ」などと怒気を含んだ声で叫ぶ映像だ。撮影の立ち位置などをめぐってトラブルになっていたとみられる。

 この映像の男性が、逃走している男かどうかは不明だが、現場の生々しい様子をとらえた映像として瞬く間に拡散し、鉄道ファンとみられるユーザーの間で「ケンカしてまで撮影に行きたくないわ」「JRのネタ列車には近寄らんとこという思いをより一層強くした」などと大きな反響を呼んだ。

 鉄道愛好家でつくる「鉄道友の会」の鹿山晃事務局長は「特に写真を撮るファンのマナーが問題になっています。健全に楽しく撮影しようというファンにとっては迷惑以外の何ものでもありません。ファンの中でも眉をひそめている人は多いです」と話す。迷惑行為に及ぶファンは一部とはいえ、強い危機感を持っているという。駅構内でトラブルが相次げば、「(鉄道会社が)ホームでの撮影を禁止するということも起こり得る」(鹿山事務局長)ためだ。

 ラストラン「告知なし」に

 実際、トラブルを避けるために、さよならイベントの開催を見送り、ラストランの告知もしなかった鉄道会社がある。東京メトロだ。昨年2月28日、30年以上にわたって東京の地下を走ってきた日比谷線の車両「03系」がひっそりと引退した。東京メトロ広報部によると、さよなら列車の運転やイベントの開催はなく、ラストランの告知も行わなかったという。

 東京メトロでは2018年11月に、千代田線などを走った「6000系」車両のさよなら列車を走らせたが、一部の車両に多くのファンが詰めかけトラブルに発展。03系の引退時には「そういった事態を避けるために(ラストランの)告知をしなかった」(広報部)という。

 撮り鉄をめぐっては2010年2月に大阪府柏原市のJR関西線で、お座敷列車「あすか」を撮影しようと約10人が線路内に侵入し、大阪府警が鉄道営業法違反(鉄道地内立ち入り)容疑で捜査する事態が起きたほか、2014年10月には埼玉県上尾市のJR上尾駅でも警察官が臨場する騒ぎに発展した。このときの様子を撮影したとみられるネット上の動画には、駅員や警備員、一般の乗客にも罵声を浴びせる過激なファンの姿が映っていた。

 鉄道友の会の鹿山事務局長は「185系は老朽化でなくなっていく車両。そういうときにお祭り騒ぎで人が集まりました。少しでも良い写真を撮りたいという欲求から(トラブルも)起こり得ますが、これはもう社会人、人間としてのマナー、エチケットの問題です。ファンによる自浄作用に期待しています」と語った。

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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