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石綿訴訟、一人親方も救済 原告女性「胸のつかえとれた」仏壇の夫と息子に報告

 「2人とも認めてもらえたよ」。建設アスベスト訴訟の上告審で、最高裁が17日、国とメーカーの賠償責任を認定し、個人事業主である「一人親方」に対する国の責任も認めた。石綿による肺がんで夫と息子を失った横浜訴訟の原告、栗田博子さん(81)は判決後、横浜市内の自宅に戻り、仏壇に手を合わせた。「『同じ条件で働いていたのにどうして』という思いがあった。ようやくいい報告ができ、胸のつかえがとれた」と安堵(あんど)をにじませた。

 夫の秀男さんは大工として主に個人住宅を手掛けた。次男の圭二さんも、父の背中を見て大工となり、一緒に汗を流した。

 しかし、秀男さんは平成19年に肺がんと診断され、後の手術で「肺がぼろぼろだ」と告げられた。間もなく酸素マスクが手放せなくなり、苦しそうに「体が痛い」と訴えた。なんとか和らげばと博子さんは背中をさすったが、「それしかできず、つらかった」。結局、20年に72歳で亡くなった。

 秀男さんだけではない。翌年、圭二さんが「背中が痛い」といった。肺がんだった。圭二さんには婚約者がいた。結婚式を控えていたが、体力が保てず、かなわなかった。式を予定した日には、本人の強い希望で入院先から一時帰宅し、彼女と手を取りケーキにナイフを入れた。3カ月半後、新婚生活を送ることなく、40歳で息を引き取った。

 2人とも作業中に吸い込んだ石綿が原因とわかり、博子さんは司法に救済を求めた。しかし、労働者だった圭二さんは救済対象となった一方、秀男さんは「個人事業主」という理由で賠償を得られなかった。「同じ仕事をしていたのに理不尽だと思った。すべての被害者を分け隔てなく救ってほしい」。そう願って長い裁判を闘ってきた。

 今は長男(58)が1人で大工を続けている。長男の前では決して口にしないが、「もしかしたら…」と怖くなる。博子さんは「今もたくさんの被害者が出ている。これから発症する人のためにも、不安のない制度をつくってほしい」。今後の国の取り組みを待っている。

 一方、この日の判決後に都内で開かれた原告団・弁護団の集会では、国が未提訴の被害者を含めた救済制度を創設する方向で検討していることが報告され、会場からは拍手も沸き起こった。東京訴訟弁護団長の小野寺利孝弁護士は「これで終わりではなく、危険な建材で大きな利益を得てきたメーカーの社会的な責任も追及していく」と話した。

■「原告有利で画期的」 東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害リスク学)の話

 「判決ではアスベストの危険性を見過ごし、放置した国の責任と企業の責任を明確に整理している。労働者でなく経営者だとされてきた『一人親方』についても、実態は一労働者だったという見解がはっきり出ており、思い切った、画期的な判決だ。原告にとってはかなり有利で、完全勝訴とはいかないが満足いく結果だと思う。訴訟に入っていない被害者もいるが、国も全面的に和解金・給付金を支払う方向で動いており、やっとここまできた、という感じだ」

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