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邦楽の海外輸出 鍵は「訳詞」 音楽性損なわぬ英語で

 ヒット曲や話題の歌は常にあるものの、国内音楽市場は頭打ちの傾向が続いている。だが、配信サービスが主戦場となる世界の音楽市場は右肩上がりだ。こうした環境を見据えて、日本でも「邦楽」を海外に輸出しようとする動きが活発化している。その際に避けて通れないのが歌詞の翻訳だ。言語や文化の壁を乗り越えてより深く邦楽曲を知ってもらいヒットを狙う。最新の“訳詞”トレンドとは。(三宅令)

伸びる音楽の世界市場

 昨年末、世界最大手の音楽配信サービス「Spotify(スポティファイ)」での世界的な注目度を反映したグローバルバイラルチャートで、松原みきさんの「真夜中のドア/Stay With Me」(昭和54年発売)が2週間以上にわたって連続1位になった。

 インターネットによって曲の検索や、海外から日本の情報へのアクセスが簡単になったことで、昭和のシティポップが“再発見”されたものだ。いま世界の音楽シーンから旬なジャンルとして認識されている。

 業界関係者は「人口減も考えると、日本市場はいずれ飽和する。邦楽曲の知名度を高め、海外市場への足掛かりを作ることが、日本の音楽業界が生き残るうえで重要だ」と話す。

 国内の音楽市場は、海外に比べてCD販売にこだわり、配信への転換が遅れたことが停滞の一因になったとみられている。一方で、世界の音楽市場は配信サービスの隆盛で、2014年から19年にかけて1・4倍と急激な成長を遂げ、現在も拡大を続けている。

必要なのは英語力

 アジアで、欧米など世界市場への進出をいち早く果たしたのは「BTS」や「BLACKPINK(ブラックピンク)」らを擁する韓国のK-POPだ。この10年ほどで爆発的に輸出額を伸ばし、米ビルボードのチャートでも上位に定着する。

 K-POPの快進撃は、世界市場のトレンドを意識した作品作りとともに、徹底した言語トレーニングによる英語力に支えられている。業界関係者は「音声が大半の要素を占める音楽作品において、アーティストや作品の英語対応が世界展開に欠かせない」と話す。

 J-POPでも、国内外で活躍する「SEKAI NO OWARI(セカイノオワリ)」や「ONE OK ROCK(ワンオクロック)」といった人気バンドは、全英語詞の楽曲を多く発表。いずれも英語発音はネーティブレベルと評価されている。

元の内容と変わっても

 「SEKAI~」や米津玄師(よねづ・けんし)さんらの曲の英語詞を手掛けているのは、ネルソン・バビンコイさん(35)。米国出身で今は日本に住むシンガー・ソングライターでもある。近年の訳詞事情について「世界市場を意識し、直訳でなく、音楽性と両立する英訳が求められている」と分析する。

 例えば、1963年に米ビルボードチャートで1位を獲得した坂本九さんの「上を向いて歩こう」=「SUKIYAKI」。チャートインしたのは坂本さんが日本語で歌ったものだが、当時すでに英語詞バージョンもあったという。この曲は、世界中で数多くの歌手がカバーするほどの成功を収めたが、それらの原題からかけ離れたタイトルと即物的な訳詞は、日本での評判が芳しくなかった。

 しかしここ数年、非英語圏から出発したBTSの全米での活躍などから、この認識にも変化が訪れているようだ。「SUKIYAKI」の成功は「現地人に分かりやすいタイトルと訳詞にもあったのではないか」と見直されつつある。

 ネルソンさんは、海外上映が決まったアニメ映画の主題歌で、字幕のつけ直しを依頼されたこともある。映画字幕の翻訳会社による訳詞は、一言一句忠実に訳そうとするあまり、メロディーが犠牲になっていたからだ。韻や旋律を損なうことなく、日本語詞のエッセンスを抜き出して、英語に変換することを心がけているという。その際、表面上は歌詞の内容が大幅に変わることもあり、作曲者との打ち合わせなど、歌と詞の本質をつかむ作業が欠かせない。

 「邦楽曲の発信力を高めるためには、現地で歌える歌詞にしなくては。ますます訳詞家にも創造性が必要となっている」と指摘した。

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