ヘルスケア

コロナ国産薬も周回遅れ懸念 抗体カクテル療法承認

 厚生労働省が19日、国内の製造販売を特例承認した新型コロナウイルス感染症の治療薬候補「抗体カクテル療法」は、欧米の製薬企業が開発し、国内販売は中外製薬が担う。国産の治療薬開発は、ワクチンに続き、海外製に先行を許した形だ。国内の各製薬企業は治療薬開発を急いでいるが、ワクチンの二の舞にならないかとの懸念は依然残っている。(有年由貴子)

■スピード重視の転用薬

 抗体カクテル療法は、スイス製薬大手ロシュと米製薬企業リジェネロン社が開発。治験段階で、感染したトランプ前米大統領が投与を受けたことでも知られる。ウイルスが細胞に侵入することを妨げ、重症化を防ぐ効果がある。

 新型コロナ治療薬をめぐっては、スピードを重視する既存薬転用と、時間をかけ、有用性を高めた治療薬を開発する手法がとられている。前者は、開発期間が大幅に短縮できる上、副作用など安全性に関するデータの蓄積があるため、早期の市場投入が期待できる。

 このうち、中外製薬が開発した関節リウマチ治療薬「アクテムラ」は国内での最終治験を終え、同社は年内の承認申請を目指す。富士フイルム富山化学が開発し承認申請中の新型インフルエンザ治療薬「アビガン」は、10月までに再治験を完了する予定だ。

 ノーベル賞を受賞した大村智・北里大特別栄誉教授が開発に貢献した抗寄生虫薬「イベルメクチン」は、ウイルスの増殖を抑えるだけでなく抗炎症効果も期待されている。興和が近く国内治験を始め、年内の承認申請を目指す方針だ。三輪芳弘社長は「長年にわたり安全性が確認されている薬。新型コロナに対する有効性を示し早期に実用化させたい」と話す。

■先行許す国産治療薬開発

 一方、抗体カクテル療法と同様に、最初から新型コロナ向けに開発された新薬はどうか。実用化に向け、激しい開発競争を繰り広げているが、海外企業が一歩先行している形だ。

 ロシュとリジェネロンが開発した抗体カクテル療法は日本での実用化がみえてきた。また、米製薬大手ファイザー社は今年3月から、ウイルスが増殖するのを妨げ、重症化を防ぐ経口薬を開発。同社のアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)は4月下旬、米CNBCテレビのインタビューで、すでに治験を始めており、今年末までに実用化できる可能性に言及した。

 国内では、各社が開発を急ぐが、実用化のめどは見えていない。

 塩野義製薬が、抗ウイルス効果のある軽症や中等症患者向けの飲み薬を開発中で、9月までの治験入りを目指す。担当者は「新型コロナの克服には安全に手軽に飲める薬が不可欠。開発を急ぎたい」とする。

 バイオ技術を使った次世代医薬品の開発も進む。ロート製薬は、脂肪組織由来の幹細胞を用いて重症肺炎患者の過剰な炎症を抑える「細胞製剤」の治験を進めている。バイオベンチャーのヘリオスも骨髄由来の幹細胞を使った薬の治験を実施中だ。

 日本新薬はウイルスの遺伝物質を制御する「核酸医薬」を開発中で、来年度の治験入りを目指す。バイオベンチャーのリボミックやボナックなども同様の薬の開発を進めている。

 バイオ企業ペプチドリームや富士通などが立ち上げた創薬ベンチャーのぺプチエイドは、アミノ酸が連なった「ペプチド」を用いた抗ウイルス薬の開発に取り組む。富士通の高速コンピューター技術を用い、開発期間を短縮。今年中の臨床試験入りを計画している。

■高いハードル

 バイデン米政権は6月、新型コロナや他のウイルスによる感染症の大流行に備え、新たな抗ウイルス薬の開発支援に32億ドル(約3500億円)を投じると発表した。国を挙げての支援といえるが、こうした政策の違いが、ワクチン開発と同様に、国産治療薬の開発の「遅れ」につながる懸念はある。

 また、安全性や有効性を示せず開発を断念した薬もあり、実用化に向けてのハードルは高い。

 小野薬品工業は抗ウイルス作用が期待された慢性膵(すい)炎の薬「フオイパン」について、治験で新型コロナに対する有効性を示せず開発を断念。武田薬品工業は、患者の血液から抽出した中和抗体を薬として精製する「血漿(けっしょう)分画製剤」について開発を打ち切った。

 第一三共も急性膵炎の薬「フサン」の新型コロナ向けの吸入製剤化を進めていたが、開発を中止した。担当者は「非臨床試験で安全性に懸念が生じるなどしたため」とする。

 治療薬とワクチンは社会活動再開を支える両輪だ。新型コロナの治療法や治療薬に詳しい愛知医科大の森島恒雄客員教授(感染症学)は「早い段階で確実にウイルスを減らし、副作用がなく安価な治療薬を誰もが望んでいる。国産ワクチンは出遅れたが、有用性の高い日本発の薬を作れれば世界にも貢献することができる」と話している。

Recommend

Biz Plus

Ranking

アクセスランキング