宇宙開発のボラティリティ

満身創痍のISSに降りかかる危険 宇宙ステーションの重大インシデント

鈴木喜生
鈴木喜生

 ロシアの新モジュール「ナウカ」が7月29日、ISS(国際宇宙ステーション)にドッキングした。しかしその直後、ナウカに搭載されたスラスターが予期せず噴射し、ISSの姿勢が制御できず、地球との交信も途切れるという重大インシデントが発生した。フライトディレクターが「緊急事態」を発令し、最悪の場合、クルーの緊急脱出も想定されるような状態が45分ほど続いたのだ。

 幸い、最悪の事態は回避されたものの、今回の事故は、なにが原因だったのか? また、ISSはそもそもどのような危険にさらされ、過去にはどんな事故が発生しているのか? 老朽化が進み、退役時期の検討が進むISSの現状情報をご紹介したい。

ISSの姿勢、45度傾く

 カザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地から打ち上げられたロシア初の多目的実験モジュール「ナウカ」(ロシア語で「科学」の意)は、打ち上げから8日後の7月29日(UTC:世界標準時)、ISSへドッキングした。ナウカの全長は13m、質量20トン、大型観光バスほどのモジュールであり、それをサッカー場ほどの大きさのISSへ接続させるというミッションだ。

 ドッキング自体は無事成功したが、しかしそれから約3時間後、ナウカに搭載されたスラスターが不意に噴射をはじめ、約420トンの質量を持つISS全体が回転しはじめた。このオペレーションはNASAではなく、モスクワのコントロールセンターから行われていた。

 最初はISSが搭載するジャイロスコープで姿勢を制御しようとしたが静止せず、次に、ナウカがドッキングしたロシアのモジュール「スヴェズダ」に搭載されたスラスターを逆方向へ噴射したが、やはりISSの回転は止まらない。そのためナウカの反対側にドッキングしていたロシアの無人補給線「プログレス78(MS-17)」(7月2日より係留中)のスラスターも噴射させることで、どうにかISSの回転を食い止めた。やがてナウカのスラスターが停止したことにより、ISSはやっと姿勢を取り戻したのだ。

 その45分間に地上との交信が数分間にわたって遮断され、また、ISSの姿勢は45度傾いた(※ナウカの不意なスラスター噴射から4日後の8月3日、NASAはナウカの回転が当初公表された45度ではなく、540度〈約1回転半〉だったと訂正しています)。

 NASAのマネージャーによると、「搭乗員は危険な状態ではなかった」という。現在ISSには7名が搭乗しているが、うち1名は船長である星出彰彦氏だ。

 この予期せぬスラスターの噴射は、ドッキングが完了したナウカとISSのハッチを開ける準備時(統合:integrating)に発生した。ロスコスモスは「一時的なソフトウェア障害」のために、モジュールのスラスター(エンジン)のコマンドが誤って操作されたことが原因だと公表。現在は「ISSとナウカはすべて正常な状態」だと説明している。

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