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“ジブリっぽくない”ヒロインの理由 宮崎吾朗監督「劇場版 アーヤと魔女」

 長編アニメーション映画「劇場版 アーヤと魔女」が27日、公開される。「となりのトトロ」や「千と千尋の神隠し」などを手掛けた制作会社「スタジオジブリ」の最新作だが、初めて全編を3次元コンピューター・グラフィックスで作るなど、“ジブリらしくない”野心作となっている。監督の宮崎吾朗(54)に話を聞いた。

 10歳の少女、アーヤは魔女に引き取られ、家事労働をさせられる。魔法を教えてくれるといったのに、その素振りすらない。そこで、アーヤは“反撃”を始める。

 アーヤはしたたかな子供だ。宮崎は、「いわゆるジブリっぽいヒロインじゃない」と笑う。

 原作は「ハウルの動く城」と同じ英作家、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの小説だが、物語は魔女の家の中でのドタバタに終始する。これもジブリっぽくないかもしれない。

 宮崎は「初期のアニメのように物語の筋に頼らず、キャラクターが動いているだけで成立するようなものが作れたらおもしろいと考えた」と説明する。

 アニメの原点に立ち返ったような作品だが、3Dアニメという最新技術を持ち込んだ。宮崎は「そこに、ある種の勝算があるのではないかと考えた」という。

 ジブリの数々の名作を手掛けた監督、宮崎駿(はやお)(80)の長男。天才の息子は、公園などの設計の仕事をしていたが、東京都内に「三鷹の森ジブリ美術館」を建設する際、ジブリに誘われた。

 完成後、美術館長を拝命したが、やがて駿が、ことあるごとに引退を口にするようになる。困った。美術館の隆盛のため、ジブリにはアニメを作り続けてほしい。

 その頃、製作が暗礁に乗り上げていた「ゲド戦記」の監督を買って出たのは、そうした考えによるものだった。ジブリからも勧められたが、駿は激怒した。「素人風情が監督とは許せん」。3年も口をきかなかったという。

 仕事の虫で、めったに帰宅しなかった父。子供の頃はけんかの記憶などなかったが、ジブリに入った息子には苛烈だった。

 だが、「ゲド戦記」を皮切りに3作目の映画となる今回は、「好きにすればいい」。そもそも原作を宮崎に渡したのは駿だ。

 宮崎は、アーヤに何を託したか。

 「少子化で大人に囲まれた環境で生きている今の子供たちは、息苦しいかもしれないが、自分が何をしたいか、どうありたいか、どう実現するかを考えてほしい、ということかな」

 アーヤは、ジブリっぽくない。清く正しく美しい子ではない。だが、宮崎はいう。「今は、そっちのほうが、いいんじゃなかろうか」

 みやざき・ごろう 昭和42年、東京都生まれ。信州大卒業後、建設コンサルタント。平成13~17年、三鷹の森ジブリ美術館館長。映画「ゲド戦記」(18年)でアニメ監督に。映画はほかに「コクリコ坂から」(23年)。テレビは「山賊の娘ローニャ」(NHKBSプレミアム)。愛知県に令和4年開業予定の「ジブリパーク」の計画・設計も手掛ける。

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 「劇場版 アーヤと魔女」は、27日から東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田などで全国公開。1時間22分。(石井健)

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