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株高で浮かれる愚

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株高で浮かれる愚

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主要金融経済指標の前年同期比増加額=2014年1月7日現在、※データ:日銀、内閣府  【国際政治経済学入門】

 脱デフレと成長をめざすアベノミクス2年目の今年はどうなるか。その「第1の矢」である、お札を大量に増刷する日銀の異次元金融緩和策の株式市場に対する威力は抜群で、今年もハイペースで日銀マネーが金融市場に流し込まれる。しかし、投資家ではなく株高の恩恵がないわれわれにとってみれば、暮らし向きがよくなるわけではない。

 貸し出し増は14兆円止まり

 2008年9月のリーマン・ショック後、世界の主要中央銀行は通貨を大量発行して国債などの金融資産を買い上げる量的緩和政策をとってきた。なかでも、米国は金融恐慌回避に成功し足取りは重いが実体景気を少しずつ回復させている。だが、2013年の実績を見る限り、日本が量的緩和で米国のような成果を出せる見通しは立っていない。

 あふれる日銀マネーはいったいどこへ行ったのか。グラフを見よう。

 日銀は昨年(2013年)11月までの1年間で65兆円もカネを発行して、金融機関から主に国債を買い上げてきた。まずは株式市場である。日銀マネーが直接、金融機関経由で株の購入に充当されるわけではないが、量的緩和はドルなど他通貨に対する円安を招き寄せる。米欧の投資ファンドを中心にした外国投資家は「円安=日本株買い」という自動売買プログラムを稼働させるので、株高が導き出される。かくして日経平均株価は11月末までに75%上昇し、東京証券取引所の株式時価総額は187兆円膨らんだ。

 ではわれわれが働いて所得を得て、消費する実体経済にどれだけカネが回ったのか。まず銀行の資産は37兆円、預金は25兆円増えた。日銀が銀行から国債などを買い上げた分、銀行は資金を受けとるが、その97%の63兆円はそのまま民間銀行が持つ日銀の当座預金にとどめ置かれる。なにしろ日銀はこの銀行の余剰資金に0.1%の金利を払ってくれるので、銀行は積極的に貸し出しに回さなくてもよい。従って、貸し出し増加額は日銀資金供給増加額の22%弱の14兆円にとどまる。

 日銀マネーがわれわれの消費や生産活動に回れば、銀行預金や現金流通量が増える。これらに預金に準じる大口の譲渡性預金証書(CD)を加えたものが、実体経済に流れるお金であり、金融用語では「マネーストックM2」と呼ばれる。通常、景気がよくなれば、おのずとM2は増えるのだが、日銀マネーが65兆円追加されたのに、M2はその54%強の35兆円しか国内の実体経済部門に回っていない。

 ところが、多くの金融機関は国内よりも海外向けに融資するのは熱心である。企業の対外投資を含め、日本の対外金融資産は9月末で総額130兆円、海外の対日金融資産増加分を差し引いたネットで24兆円増えた。

 要するに、日銀がお金を刷ればニューヨークなど国際金融市場から大歓迎されるが、国内の消費や雇用を活気づけているとは言いがたい。

 総生産増大は公共投資

 実体経済を表す名目国内総生産(GDP)は、昨年7~9月期で前年同期比9.7兆円、率にして2%強増大したが、それに寄与したのは主に公共投資である。量的緩和が民間消費や企業の設備投資を押し上げるには至っていない。

 円安はエネルギーなど輸入原材料コスト高を生む。中小企業の大半はコスト上昇分を販売価格に転嫁できない。その結果、中小企業営業利益は昨年4~6月期、7~9月期にそれぞれ前年同期比15%減、32%減と落ち込んでいる。価格転嫁できる大手企業の収益増とは対照的だ。

 製造業大手はこれまでの超円高とデフレによる内需の低迷で、中国など海外の製造拠点を増強し、そこから部品や製品を国内に輸入するビジネス・モデルに切り替えた。量で見ると、輸出は東日本大震災後、最近に至るまで下落基調が止まっていない。輸入量は2010年初めから増加の一途を辿り、アベノミクス開始後は高水準のまま推移している。この結果、日本の貿易赤字は増加し続けている。

 「異次元緩和による実体景気への影響には1、2年かかる」とリフレ派のエコノミストたちは言うが、なおさらのこと、今年4月の消費税増税後が気がかりだ。日銀の政策委員会の大勢は来年の消費者物価上昇率を消費増税の影響分を含め3%前後とみているが、インフレ分を勘案すると実質所得は減る。住宅や自動車、家電など耐久消費財の需要は消費増税前の駆け込み需要から一転して大きく落ち込む恐れがある。株高で今年も浮かれるのはばかげている。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS

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