深い“場の力”を残す下町の原風景 「まち工場跡」の魅力
東京・下町の原風景、まち工場。その数は年々減り続けているが、廃業した建物を活用したユニークな施設に注目だ。昭和のにおいが漂う広い空間。天井や壁のくすみに宿る歳月。日本のモノづくりを支えた職人の気配も…。深い“場の力”に包まれてみた。(重松明子、写真も)
パヤパヤ、ズンドコ…。
サイケデリックな女性4人組が歌い踊るステージは東京都墨田区の皮革工場跡だ。古い階段を上がると、かつての革の干し場がまばゆい舞台となっていた。背後の荒川河川敷が天然の書き割りみたい。
「すごいでしょ! この空間を全部使いたかった」
昭和40年代の音楽・演芸・ファッションを追究するレビュー団「デリシャスウィートス」リーダーのチャーマァさん(41)が呼びかけた。
この秋開かれた結成20周年公演。レトロでユーモラスなお色気?と秘密めいた工場跡が絶妙なマッチングで、3日間に300人以上が詰めかけた。「エネルギッシュな高度成長期のモノづくりの活力を、芸に取り入れていきます」とチャーマァさん。
工場の操業は終わっても、新たな創造が生まれている。
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東京23区最大の工場集積地大田区。昭和58年の最盛期の9177社から平成26年には3481社と半数以下に減っているが、地域の観光資源としても期待されている。大田観光協会は5年前、まち工場跡を使ったモノづくり発信施設「くりらぼ多摩川」を開設。まち工場巡りツアー「おおたオープンファクトリー」を11月17、24日に予定している。
そんな同区西糀谷にある「ギャラリー南製作所」に足を踏み入れると、淡い機械油のにおいがした。コンクリートの床のザラリとした感触、鉄骨組みの天井に蛍光灯。時が止まったようだ。
「ここが一番落ち着くんです」。オーナーの水口(みなくち)恵子さん(58)が出迎えた。父の南基次郎さんが昭和33年、一代で築いた自動車部品工場。最盛期20人の工員を抱えていたが、時代の波には抗えず先細った。だが、基次郎さんは1人になっても「体が動く限りは」と86歳まで黙々と仕事を続け、5年前に88歳で亡くなった。
その2年後。1人娘の恵子さんは120平方メートルの工場をそのままギャラリーにした。