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【揺れる森林大国】(下)成長産業化へ 中高層建築で需要創出

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 「林業の生産額は年間約4500億円でそのうち木材が2500億円。奇異に感じられるかもしれませんが、残りの2000億円はキノコなのです…」

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 平成29年5月、政府の規制改革推進会議の農業ワーキング・グループが林業をテーマにして初めて開いた会合。座長から林業の経済規模について質問が出ると、林野庁の今井敏長官(当時)は木材とキノコとの比較を持ち出して、林業の現状を説明した。

 国土の3分の2が森林で覆われる日本は森林大国だ。しかしその豊富な木材資源は十分に生かされているわけではない。

 そんな林業に改革の波がようやく押し寄せている。高度成長期に大量に植林されたスギ、ヒノキを中心とする人工林が、約50年のサイクルを経て伐採の適齢期を迎えているからだ。

 国内の森林約2500万ヘクタールのうち約1000万ヘクタールが人工林で、このうち半分は植林から51年以上がたっている。木材として有効活用できるチャンスであると同時に、放置していると、森林の機能が低下して土砂災害に直結しかねない。

 安倍晋三政権はこれまでの政権とは異なり、林業改革を「成長産業化」という視点でとらえてきた。「農林水産業・地域の活力創造本部」では林業の成長産業化を盛り込んだプランを策定。「戦後以来の大改革」(菅義偉官房長官)を掲げて林政に目を向ける。

 来月1日施行の森林経営管理法は改革の第1弾だ。森林所有者が自分の森林を管理できない場合、市町村が委託を受けて集約し、さらに丸太生産など林業経営に適した森林については、市町村が意欲と能力のある林業経営者に再委託するという枠組みだ。「森林バンク制度」とも呼ぶ。

 ただ、国内林業は生産コストの高さという大きな問題も抱えている。

 地形などの条件が似ているオーストリアと比較した場合、1立方メートル当たりの生産コストはオーストリアで2400円から5500円だが、日本は5600円から9000円。丸太価格のコスト構造を林野庁が分析したところ、切った木を林道まで運ぶ伐出コストや流通コストが重荷となっており、林道整備が急務といえる。

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