中国事業で「不察知のリスク」が高まっている要因
「不察知のリスク」を抑え、事業環境変化に迅速に対応するための一つの方策が「ガバメント・リレーション(GR)」の強化である。中国では政府のほか、大学や研究機関などの学者・専門家が政策立案に参画して大きな役割を担っており、GRとはこうした機関やその関係者に対するロビー活動を指す。
中国におけるGR対応は、日系企業に比べ、欧米系企業が先行している。欧米系大手は中国事業における政府対応の重要性を強く認識し、顧客・市場に相対するマーケティング活動と政府に相対するGR活動を同列に位置付けている。「政府事務部」などの名称が付いたGR専門チームを設けており、チームを率いる責任者を現地法人の経営陣の一角に据えている。責任者は、「欧米の大学に留学経験を持ち、その後、中国の政府機関や政府系研究機関などに長年勤め、業界内で知名度がある」ような人物である。
長期的な負担視野に
人脈が大切な中国社会で、自前の人材を育成して業界動向を左右するような人脈ネットワークに入り込ませるには長い時間もかかる上、スムーズに実現できるとは限らない。ネットワーク内部にいる人材をこちらの仲間に迎え入れることが必要だといえる。
GR活動の中身は、中国側関係者が海外出張する際に本社訪問を受け入れたり、中国で開催される業界イベントのスポンサーを買って出たり、業界セミナーに講師を派遣したり、日本企業が日頃やっていることと大差はない。ただ、日本企業のこうした活動が往々にして一回限りの単発の交流に終わってしまうのに対し、GR専門チームを持つ欧米系企業では、その後のフォローアップを含め、事業に生かせる人脈構築につなげている。
日中関係が好転し、日本本社を訪問する中国からの訪問団が増えている。在中国日系企業からも、GR活動の重要性を指摘する声が上がり始めている。
日本企業が中国におけるGR活動を推進していくためには、(1)前述したようなGR専門チームと責任者を設置する(2)GR活動の目的(出口)を明確にした上で、ターゲットとする機関や人物(ポスト)を絞る(3)短期的な収益につながりにくい地道なGR活動に対して、社内の長期的なコスト負担体制を明確にしておく-ことなどが肝要となる。
【プロフィル】川嶋一郎
かわしま・いちろう 早大第一文卒。1991年台湾淡江大学法学修士。92年野村総合研究所入社。台北支店長、野村綜研(上海)咨詢の総経理などを経て、2018年4月から現職。55歳。静岡県出身。