中国・ロシア蜜月も…一帯一路、「北京-モスクワ」の高速鉄道は幻か
しかし、このモスクワ・カザン高速鉄道に関しては、15年6月に中露間で「モスクワ・カザン高速鉄道プロジェクト調査設計契約」が締結され、16年11月に調査の終了が報じられた後、進展を伝えるニュースが途絶えた。15年6月の時点で中国の国有企業、中鉄二院工程集団の受注が決定したと報じられたが、その後、ドイツ、イタリア、スペインなどの第三国が同プロジェクトに参入するという情報も出るようになった。
18年8月、筆者がロシアを訪問した際、ある教授は、中露両国が共同で同高速鉄道プロジェクトを進める見込みは既になくなったとの見方を披露した。
蜜月の裏に警戒感
こうした見方の背景にはまず、中国が債務返済に行き詰まったスリランカのハンバントタ港を99年租借するとの報道などを受けて、ロシア国内のインフラ建設に中国が一国で参入することへの警戒が広がったことがある。ロシア国内ではまた、モスクワ-カザン間よりモスクワ-サンクトペテルブルク間の高速鉄道を優先的に建設すべきだという意見が強い。一方の中国側でも、18年頃から「一帯一路」の各項目の見直しが進んだことなどが関係している。以上のような展開を受けて、北京とモスクワを高速鉄道で結ぶ計画についても、最近では聞かれなくなったのである。
モスクワ・カザン高速鉄道は、当初の予定では、18年のサッカーワールドカップ(W杯)ロシア大会の開幕前に営業が始まるはずであった。しかし、営業はおろか、いまだ着工さえなされていない。モスクワ・カザン高速鉄道がつまずいたことで、北京とモスクワを高速鉄道で結ぶ夢も、はかなくついえたようである。もちろん将来、また思い出される日が来るかもしれない。しかし、いわゆる「中露蜜月」の裏側は万事順調とは言い難いようである。
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【プロフィル】熊倉潤
くまくら・じゅん 東京大学大学院法学政治学研究科修了。博士(法学)。2018年アジア経済研究所入所。これまでに米エール大学、ロシア国立人文大学、中国北京大学、台湾政治大学に留学。33歳。茨城県出身。