ジャカルタレター

汚職撲滅法改正、民主主義逆行の危機

 インドネシアの国会で9月17日、「汚職撲滅法」改正案が賛成多数で可決された。改正案は同国民主主義において大きな役割を果たしてきた「汚職撲滅委員会(KPK)」を弱体化させるもので、学生らが激しい抗議デモを繰り広げている。

 摘発相次ぎ圧力

 同国では1998年にスハルト政権が崩壊し、民主化に向けてさまざまな改革が行われた。その中でも、国民からの厚い信頼を得て汚職犯罪の摘発に注力してきた組織がKPKである。

 インドネシアの文化とも言われてきた「汚職、癒着、ネポティズム(縁故主義)」の根絶は民主国家として最大の課題であるとの認識から、KPKは独立した国家委員会として、また非常に強い捜査権限を有した組織として誕生し、数々の実績を上げてきた。検挙者の有罪率は100%を維持してきたことからも、KPKが高いプロフェッショナリズムを持ち、徹底した捜査を行ってきた組織であることが分かる。

 一方で、政府高官から裁判官、国会議員や知事を含めた政治家、企業のトップなどが数多く摘発されてきたため、権力者の多くがKPKを疎んでいたのは想像に難くない。KPKのリーダーや捜査員たちは、何度となく命の危険に直面し、KPKはそれを潰そうとする勢力と闘ってきた。

 しかし今年に入り、ついに国会はKPKに手を出し始めた。まずは人事に関与し、倫理規定違反の疑いがあり不適切だと指摘されてきた人物であるにもかかわらず、南スマトラ州警察本部長のフィルリ・バフリ氏をKPK長官に任命した。

 そしてKPKを弱体化させるべく動いたのが、今回の法改正だ。改正法はKPKの持つ捜査権限を著しく制限し、独立性が失われてしまうとの反対があったにもかかわらず、可決されてしまった。民主化改革の最後の大切な遺産であったKPKが事実上無くなったにも等しい状態となれば、インドネシアは権力者たちのやりたい放題、汚職大国に逆戻りしかねない。

 学生たちが抗議デモ

 今国会ではさらに、刑法の改正法案も審議され、その内容は同性愛関係の禁止や人工妊娠中絶を手助けした者を罰するなど、イスラム保守系の支持を受けたものとなっていた。大統領を侮辱したものを厳しく罰するとした文言も含まれた。

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