高論卓説

台風接近時にスタジアムの下で起こっていたこと 河川氾濫防ぐ遊水池整備を急げ

 台風19号による広域的な洪水被害は、想像を絶するものだ。被害に遭われた方々には、心からお見舞いを申し上げたい。梅雨から夏に各地で頻発する集中豪雨による土砂災害や台風による風水害に枚挙のいとまのない事態は、まさに異常そのもの。これも地球温暖化の影響であろうが、それらを激甚災害に指定することにより、国の財政支出も増大するばかりである。

 この秋は、台風による被害が1カ月半の間に2度も起きてしまったが、被災者は口々に、「想像もしていなかった」とマスコミの取材に答えている。しかし、地方自治体は水防法、土砂災害防止法の規定により、浸水想定区域や土砂災害警戒区域を定め公表、住民に周知している。自身の住む地域が、河川の氾濫や土砂災害によっていかなる状況になるかは、あらかじめ地図上で確認、判断できる。

 私が住む横浜市鶴見区は、1960年代までは、一級河川・鶴見川の氾濫により、度々、浸水被害の出る街だった。鶴見川は、蛇行が激しく、豪雨となると暴れ川と化すのだ。そこで70年代初めごろから総合的な治水対策が行われた。その代表的な施設が、新横浜公園という遊水機能を持った公園である。

 先日、日本中が沸き立ったラグビーワールドカップ(W杯)の日本対スコットランド戦は、まさにその一角にある横浜国際総合競技場で開催されたが、台風19号による豪雨で増水した鶴見川の水を1000本以上の柱で支えられた高床式構造で建設されている競技場の下部に流し込み、鶴見川流域の浸水を未然に防いだ。テレビで映し出された熱狂のスタジアムに、当時の朝まで河川の水が流し込まれていたと知っている人は、どれほどいただろうか。

 私自身、台風接近の前日、自宅周りでさまざまな備えを行ったが、浸水対策は、「新横浜公園があるから大丈夫!」と、特に気にとめなかった。午後から夜にかけて雨は強まり、鶴見川の水位は上昇したが、横浜市から発信されてくる「河川水位情報」のメールで、「氾濫はなかろう」と安心していた。それは、二子玉川などで氾濫したお隣の多摩川とは対照的だった。

 都市には、水田のように保水性のある広い土地はない。雨が降るだけ、河川に流れ込み氾濫する。鶴見川流域の住民は、そうした不安を心の奥底に抱えてきたが、遊水機能を持つ新横浜公園のおかげで、今回のような豪雨でも、あまり緊張せずに一夜を過ごすことができるようになった。まさに都市における安全・安心の装置が遊水池である。都市河川の流域では、浸水の繰り返される区域に土地利用制限をかけ、公用地として買収した上で、新横浜公園のような施設の整備を進めていくべきだ。

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