WTO不全、日本の紛争にも影響 米説得できず上級委欠員 長期化恐れ
世界貿易機関(WTO)の紛争処理で裁判の「最終審」にあたる上級委員会の委員が11日、1人だけとなり機能不全に陥った。上級委の審理には委員が最低でも3人必要だが、米国の反対で任期切れの委員を補充できなかったからだ。上級委で係争中の案件を持つ日本にとっても影響は避けられない。WTOが1995年に発足して以来、初の異常事態だが、解決策は見いだせていない。
梶山弘志経済産業相は11日、WTOの機能不全を受け、「今後新たに上訴される案件について、紛争案件が解決されない事態が生じることを懸念」とするコメントを発表。茂木敏充外相も同日、「上級委の改革は喫緊の課題だ」などとするコメントを出した。
日本政府が危機感を強めるのは、WTOの紛争処理機能がマヒすることで、保護主義的な動きが強まりかねないからだ。
現在、上級委では13の案件を係争中だ。このうち4件については審理がほぼ終わっており、任期切れを含む3人の委員により結論を出すものとみられる。しかし、残る9件については審理が宙に浮く恐れがある。
この中には、日本が鉄鋼製品の輸入制限措置でインドを訴え、上級委で争っている案件も含まれている。
また、日本の対韓輸出管理の厳格化で、韓国は9月に日本をWTOに提訴。11月に紛争手続きの中断を発表したが、仮に韓国が手続きを再開しても上級委に持ち込めない可能性もある。
WTOの意思決定は全会一致が原則のため、米国の反対で2年前から新しい委員が選任されていない。
米国が後任選びを拒否するのは、WTOが中国の知的財産権の侵害などに対応できていないといった不信感が背景にある。上級委は原則90日以内で判断を示すことが求められているが、審理が長期化していることにも反発している。
このため、日本などは上級委の審理期間90日の厳守や、上級委が1審にあたる「パネル」の事実認定を審査しないといった改革案を提案しているが、米国を説得できていない。6月に大阪市で開いた20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)では紛争処理機能を高めるなどWTO改革で一致したが、その後の議論は進んでいない。
次の節目とみられるのが、来年6月にカザフスタンで予定するWTO閣僚会議だ。WTOの機能不全が長期化すれば、その存在意義も問われることになる。(大柳聡庸)
WTOの上級委員会で争っている主な案件
(訴えた国/訴えられた国)
日本/インド
主な争点 鉄鋼製品に対する輸入制限措置
インド/米国
主な争点 エネルギー産業への補助金など
トルコ/米国
主な争点 パイプ製品への関税措置
ロシア/EU
主な争点 エネルギー産業への規制
ウクライナ/ロシア
主な争点 鉄道部品への輸入規制