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新型コロナで今年はマイナス成長 日本総合研究所・関辰一

 新型コロナウイルスが世界的に拡大するなか、2020年の中国経済は44年ぶりのマイナス成長になると予測している。昨年暮れに湖北省武漢市で感染者が確認された後、流行は瞬く間に中国全土、さらには世界170以上の国・地域へと広がった。世界保健機関(WHO)も3月11日にパンデミックを宣言した。新型コロナの封じ込めに向け、中国政府をはじめ主要国政府も経済活動を大幅に抑制する策を講じざるを得ない状況である。

 ◆リーマン超える惨状

 中国では、2月前半まで、政府が市民の移動や外出、建設工事、工場の操業や店舗の営業を全国規模で抑制した。これらの結果、1~2月の小売売上高、固定資産投資、輸出、工業生産はいずれも2桁のマイナスとなった。リーマン・ショック時をはるかに超える経済活動の下振れとなった。

 もっとも、中国経済は混乱の最悪期を脱しつつある。政府は既に国内での感染拡大はピークアウトしたと判断し、足元では経済活動の再開を指示した。これらの結果、経済活動は徐々に回復している。生産水準が元の水準に戻るには時間がかかるとみられるものの、湖北省を除く地域では9割以上の大企業は操業・営業を再開した。中小企業の操業・営業再開率も2月後半の3割から3月半ばに5割へ持ち直した。

 また、ほぼ全ての主要都市において、人の往来も回復傾向にある。中国のハイテク企業、百度(バイドゥ)のデータベース「百度遷徒」によると、2月に北京市内で移動した人数は前年同期の4割であったが、3月前半は6割へ小幅に持ち直した。上海、広州、深セン、天津、成都、杭州、南京、鄭州など、筆者が調べたほぼ全ての都市において市内の移動者数が増加しており、これは個人消費の底入れを示唆する。

 ただし、経済活動の急回復は期待できない。まず、世界で感染拡大が続くなか、国内感染対策の継続を余儀なくされる状況だ。現在も鉄道乗客間の間隔や飲食店の営業などの規制は残っている。操業・営業再開した企業もフル稼働からは程遠い。例えば、自動車産業の操業再開率は2月の最終週に75%まで回復した一方、生産量は平時の30%にとどまる。市内で出歩く人数も多いところで昨年の8割程度、武漢を除いて少ないところで昨年の6割程度と平時の水準には至っていない。

 加えて、外需の縮小が中国経済を下押しするとみられる。世界で新型コロナが流行するなか、米独仏など主要国政府も程度の差はあれ、中国と同様な感染対策を相次ぎ発表した。米中間の関税をめぐる応酬は一服したものの、世界経済が大きな下振れリスクに直面するなかでは、輸出は引き続き中国経済の重しになるだろう。

 ◆供給網停滞がネック

 さらに、大なり小なり原材料や部品の調達で問題が生じるとみられる。各国における工場の操業停止や出入国制限によって、世界的に物流と人の往来にブレーキがかかりつつある。2月に中国から日本への輸出が半減したように、他国から中国への輸出も大幅減少しかねない状況だといえよう。中国政府が経済活動の再開を指示したとしても、サプライチェーン(供給網)が滞ると、企業の生産活動は平時の水準までなかなか戻らないとみられる。

 このように中国における経済活動は一旦、リーマン・ショック時をはるかに超える落ち込みを経験した。最悪期を脱しつつあるものの、先行き国内感染対策の持続と外需の縮小、サプライチェーンの滞りが下押しとなり、2020年は毛沢東が死去した1976年以来のマイナス成長になるとみられる。

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【プロフィル】関辰一

 せき・しんいち 2006年早大大学院経済学研究科修士課程修了。08年日本総合研究所入社、19年から調査部主任研究員。拓殖大学博士(国際開発)。専門分野は中国経済。著書に「中国経済成長の罠」。38歳。中国上海出身。

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