新型コロナ便乗しアジアに言論統制の脅威 SNS書き込みで逮捕の例も
新型コロナウイルス感染拡大防止をめぐり、アジアで「言論の自由」「報道の自由」を制限する動きが目立っている。政府批判が社会不安をあおる「フェイクニュース」と扱われ、逮捕された例も。もともと強権的な政権がこの機会に乗じ、体制を一層固めようとの思惑もにじむ。
「リスクを冒した報いがこれか」。タイで汚職や不正を告発してきたブロガーは、会員制交流サイト(SNS)上で憤りをぶちまけた。
与党の有力政治家に近い人物がマスク2億枚を買い占め、違法売買に関与した疑いがあるとSNSで指摘すると、大反響を呼んだ。ところが警察は虚偽情報を流した容疑でこのブロガーの捜査に乗り出した。
軍事政権の流れをくむプラユット政権は、以前からフェイクニュース対策を強化。だが運用が恣意(しい)的になりかねないとの懸念が出ていた。感染拡大に伴い発令された非常事態宣言により、プラユット首相は検閲実施を命じる権限も付与された。
フィリピン中部セブでは4月19日、脚本家のマリア・ベルトラン氏が逮捕された。特定地域を名指しし、全住民が罹患(りかん)したかのようにフェイスブックに書き込んだ上「太陽系における感染の中心地」と表現したからだ。警察は大衆を混乱させたと判断、投稿翌日に令状なしで連行した。
ドゥテルテ大統領はメディア敵視を鮮明にし、言論の自由を軽視してきた。治安当局の強権的な姿勢は感染が拡大する今も変わらない。
ベルトラン氏は逮捕前に投稿を削除し「政府の対応が不十分だと当てこすっただけだ」と主張。地元の芸術家団体は「表現の自由への卑劣な攻撃」との声明を出し、メンバーの一人は「コロナではなく、対策への批判が封じ込められつつある。風刺も皮肉も言えなくなる」と懸念を示した。
フン・セン首相による強権支配が続くカンボジアでは、非常事態宣言発令を可能にするための法整備が進む。公衆衛生上の危機のほか、戦争や災害を想定し、政府は報道規制や通信傍受もできるようになると明記した。「この法律を使う確率は0.1%だが、予期せぬ事態に備えておく必要がある」。フン・セン氏はこう強調した。
だが国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは「感染拡大を権力基盤強化に利用している」と批判。カンボジアの人権問題を担当する国連のスミス特別報告者も「『秩序の維持』は、プライバシーや表現の自由の侵害に使われ得る」と警告した。(バンコク、マニラ、ハノイ 共同)