国内

雇用調整助成金、進まぬ申請 社労士頼み 高額手数料で断念も

 新型コロナウイルスの影響で業績が悪化した企業を支援する「雇用調整助成金」をめぐり、社会保険労務士に支払う手数料が支給額を上回るなど高額で申請を断念する事例が出ている。政府は手続きを一部簡素化したが、多数の書類提出が必要で自力での申請は依然、困難な場合が多い。申請のハードルが高く、企業からは「必要な資金が行き渡らない」との声が聞こえてくる。

 煩雑な手続き

 群馬県などで複数のホテルを経営する男性(61)は4月、売上高が前年比で3割以上減少し、長年契約している社労士に雇用調整助成金の申請を依頼した。しかし、受領見込み額が8万円なのに対し「手数料は10万円」と言われ断念。別の社労士を探したが、申請希望の企業が殺到して余裕がないと断られた。

 雇用調整助成金は、売り上げが減少しても企業が従業員を解雇せずに休業手当を支払ったことを前提に、その一部を支給する制度だ。男性もアルバイトを含め約80人いる従業員のシフトを減らしてやりくりするが「このままでは、従業員の一部を解雇せざるを得ない」と苦境を打ち明けた。

 5月末時点で全国の労働局への助成金に関する相談は約40万件に上るが、申請は約7万4000件。うち支給されたのは約3万8000件だ。支給までに2カ月を要する上、10種類以上の書類や出勤簿を含む添付資料の提出が求められることも制度活用の障害になっていた。

 批判を受けて厚生労働省は5月、支給までの時間を2週間程度に短縮することを目的に、提出書類を減らすなど手続きを簡素化した。だが、アルバイトが多いサービス業では、事業規模が小さくても実質上、簡素化の対象にならず社労士の手を借りざるを得ない。

 社労士の手数料は成功報酬として支給額の1~2割が相場だが、これとは別に着手金を求められることもある。取材に応じた複数の社労士が「最終的に支給額を上回ることがあり得る」と話した。

 罰則強化で及び腰

 「今回に限らず助成金の申請は手間のわりに報酬が安く、責任も重い」と話すのは社労士事務所スローダウン(東京)の室岡宏代表。相談があれば、可能な限り低額で引き受けているというが「やりたがらない社労士は多い」という。社労士が及び腰なのは、昨年4月に助成金の不正受給に関わると罰則が強化されたことも影響している。社労士の多くは萎縮しており、重い負担が申請手数料を押し上げている面は否めない。

 社労士の手数料を助成する自治体もあるが「件数は伸びていない」(さいたま市の担当者)。中小企業専門の経営コンサルタント須藤利究氏は「申請できずに終わる事業者も相当出るのではないか」と話した。

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